SSルーンとナチス式敬礼：コル・ウォルスが国民の敵となったレース

コール・ワルス：栄光から転落、ナチスの影を背負った悲劇の英雄

オランダのアムステルダム。1941年7月20日、オリンピックスタジアムは熱気に包まれていた。ナチス・ドイツ占領下という状況にも関わらず、オランダの人々は自国の英雄、コール・ワルスを一目見ようと集まっていたんだ。当時、ヨーロッパは第二次世界大戦の渦中にあり、オランダも例外ではなかった。ウィルヘルミナ女王はロンドンへ亡命、国民は屈辱と悲しみに暮れていた。そんな状況下で、ワルスの活躍は、オランダ国民にとって一筋の希望の光だった。

軌道上のスター、その大胆な走りが人々を魅了した

コール・ワルスは、トラックレース界のスターだった。一日で５つのレースを制するほどの圧倒的な実力を持っていたんだ。20歳でプロになってから３年後には、アメリカに渡り、ニューヨークやシカゴの６日間レースで活躍した。彼の魅力は、その大胆なプレイスタイルにあった。危険を顧みないアグレッシブな走りは、観客を熱狂させた。まるでツタのように、どんな状況でもバランスを崩さず走り抜く姿から、人々は彼を「スリンゲルプラント（ツタ）」と呼んだ。

一瞬のジェスチャーが、英雄を裏切り者へと変えた

しかし、その日、アムステルダムでワルスは、たった一つのジェスチャーで、国民的英雄から裏切り者へと転落してしまう。上着を脱いだ彼の姿を見た群衆は、騒然となった。その上着には、ナチスのシンボルであるSSのルーン文字が縫い付けられていたんだ。さらに、彼はナチス式の敬礼をしたという。これを見たオランダ国民は、彼に対する尊敬と憧れを、一瞬にして憎悪へと変えた。

なぜワルスはナチスに傾倒したのか？

なぜ、コール・ワルスはナチスに傾倒してしまったのだろうか？その背景には、当時のヨーロッパの政治情勢や、彼の個人的な事情が複雑に絡み合っていると考えられる。戦時下における人々の選択は、常に複雑で、単純な善悪で判断することはできない。

英雄の汚名、そして戦後

戦後、ワルスはナチスへの協力者として逮捕され、オランダ社会から完全に追放された。かつて国民的英雄だった男は、一転して社会ののけ者となってしまったんだ。彼の才能と実績は、ナチスとの関わりによって完全に否定されてしまった。

コール・ワルスの物語は、スポーツ界における政治の影、そして戦争が人々に与える影響を、強烈に物語っている。彼は、栄光と転落、希望と絶望、愛国心と裏切り、そのすべてを経験した、悲劇の英雄だったんだ。