ポガチャル、ライバルは変われど常に健在（メルクスのように）

山田 健一がお届けするサイクルロードレースの世界。今回は、アルデンヌ・クラシックを席巻するタデイ・ポガチャルについて、現地イタリアからの情報も交えつつ、私の視点でお伝えしよう。

ライバルは変われど、ポガチャルは常にそこにいる（まるでエディ・メルクスのように）

雨と寒さ、そして疲労に打ちひしがれた顔に、かすかな怒りの色が浮かんでいた。タデイ・ポガチャルは、アムステル・ゴールドレースでの失望をすぐに拭い去るため、フレッシュ・ワロンヌでの勝利を、強く、強く望んでいたのだ。あのスロベニアの天才は、2位という結果をそう簡単に飲み込むことはしない。日曜日のオランダのクラシックでは、フィニッシュまで50kmの地点で独走を仕掛けた。しかし、今回は、彼にとっては珍しいことだったが、レムコ・エヴェネプールとマティアス・スケルモースに追いつかれてしまったのだ。そして、デンマークのマティアス・スケルモースは、タデイ・ポガチャルとレムコ・エヴェネプールを打ち破って勝利するという、まさに「不敬」とも言える行為をやってのけた。ポガチャルは、その場しのぎの笑顔を浮かべたが、その「不敬」はすぐに、冷静に、雪辱されなければならなかった。突然、自身が脆い存在になり得ることを知ったことは、スロベニアの彼に、レースでのアプローチを変えるきっかけを与えたのである。

アムステルでの「誤算」がワロンヌでの「理性」を呼んだか

アムステル・ゴールドレースでのポガチャルは、まさに「ポガチャルらしい」積極果敢なレース運びを見せた。早駆けは彼の真骨頂であり、多くの勝利をそのスタイルでもぎ取ってきた。しかし、あの日は違った。レムコ・エヴェネプール、そしてマティアス・スケルモースという強力な追っ手に捕まり、結果的にマティアス・スケルモースに先着を許した。グランツールを主に追っている私にとって、春のクラシックシーズンはまた違った面白さがある。特にアルデンヌは、イタリア語圏のメディアも大きく取り上げる地域であり、選手たちの息遣いがより間近に感じられる。アムステルでのポガチャルの表情には、珍しく焦りのようなものが見えたと、イタリアの知人は言っていた。

その経験が、フレッシュ・ワロンヌでの戦い方に影響を与えたのだろうか。このレースは、何と言ってもフィニッシュ手前の「ミュール・ド・ユイ」が全てを決める。まるで壁のようなこの激坂は、最後の1kmが最も過酷で、特にフィニッシュまでの100mは、他の主要なレースと比べても圧倒的に長く感じられる。フレッシュ・ワロンヌは、モニュメントにこそ数えられないが、その厳しさから「オキシモロン（撞着語法）」とも呼ばれるほどで、ストラーデ・ビアンケが台頭するまでは、5つのモニュメントに最も近い存在とされていた。

今回のポガチャルは、いつもの奔放さを抑え、理性を優先させたように見えた。集団の前方でレースをコントロールし、ウノエックス・モビリティのレムコ・エヴェネプールと並んで位置を取る。まるで強力なエンジンを積んだ飛行機が、並走する車たちの様子を伺っているかのようだった。

ミュール・ド・ユイ、ポガチャルの「離陸」

そして、ミュール・ド・ユイがその牙を剥き出し、全ての選手の脚に食らいついた瞬間、タデイ・ポガチャルは「離陸」した。勾配が20%を超える最も残酷な区間へ入る「クリキエリオン・カーブ」よりも手前で彼は仕掛けたのだ。彼の自転車は、他のどのバイクよりも明らかに軽いかのように、チャップリンのように揺れながらも、グングンと加速していく。レムコ・エヴェネプールは、反応することすらできなかった。既に限界だった彼は、もうペースを変える余力など残されていなかったのだ。一方のポガチャルは、我々の想像の範疇を、またしても超えていったのである。あの独走は、現地で見ていた者、テレビで見ていた者全てを黙らせる、圧倒的な力を見せつけるものだった。

驚異のクラシック全戦表彰台、そしてエディ・メルクスの再来か

今シーズンの彼のクラシックでの軌跡は、まさに驚異的だ。ストラデ・ビアンケで優勝、ミラノ〜サンレモで3位、ロンド・ファン・フラーンデレンで優勝、パリ〜ルーベで2位、アムステル・ゴールドレースで2位、そしてフレッシュ・ワロンヌで優勝。出場した全てのクラシックで表彰台に上がっているのだ！そして日曜日には、4つ目のモニュメント、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュが控えている。彼は昨年と2021年に既にこのレースを制している。もちろん、今回も最大の優勝候補であり、再びレムコ・エヴェネプールと相まみえることになるだろう。レムコ・エヴェネプールも2022年と2023年にリエージュを制している強敵だ。

データだけを見れば、タデイ・ポガチャル有利と言わざるを得ない。問題は、彼がいつ、どのようにアタックするか、だ。彼の「やりすぎる」癖を抑えることができるのか？戦術的なアプローチは改善されるのか？これらの問い自体が、彼の偉大さを物語っている。ミラノ〜サンレモからパリ〜ルーベにかけてはファン・デル・プールと、そしてアルデンヌではレムコ・エヴェネプールと、さらにツール・ド・フランスではヴィンゲゴーと対決する。ライバルは、それぞれのレースやステージによって変わる。しかし、タデイ・ポガチャルは、常にそこにいる。チャンピオンの中のチャンピオンとして。それはまるで、かつてのエディ・メルクスがそうであったように。

次のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。アルデンヌの女王と呼ばれるこのモニュメントで、タデイ・ポガチャルはどんな走りを見せてくれるのか。そして、レムコ・エヴェネプールは雪辱を果たすことができるのか。今から楽しみでならない。