落車でヘリ搬送のワンダール、記憶なし

ハンガリーの恐怖から生還：フレデリク・ワンダール、落車でヘリ搬送も奇跡的に軽傷

グランツールを追いかける私、山田 健一の視点から見ても、ロードレースにおける落車は常に最大の恐怖の一つです。特に高速で密集したプロトンでの事故は、想像を絶するダメージをもたらす可能性があります。先日、ロンド・ファン・ホンガライ（ハンガリー一周）の第2ステージで発生した大規模な集団落車は、まさにそんな悪夢のような瞬間でした。その中でも、ヘリコプターで病院に緊急搬送されたRed Bull-BORA-hansgroheのフレデリク・ワンダール選手の容態が心配されていましたが、幸いにも命に別状はなかったとのこと。まずは安堵しています。

ロンド・ファン・ホンガライを襲った集団落車

5月15日（木）に行われたロンド・ファン・ホンガライの第2ステージ終盤、メイン集団の後方で突如として大規模な落車が発生しました。映像を見るだけでもその衝撃は凄まじく、多くの選手が巻き込まれ、レース続行を断念せざるを得ない選手も続出しました。この種の高速集団落車は、文字通り一瞬でレースの行方を変え、選手のキャリアをも危うくするほどの危険を孕んでいます。今回の事故も、まさにロードレースの厳しさを改めて突きつけるものでした。

ヘリ搬送されたフレデリク・ワンダール

この混乱の中で、最も深刻な被害を受けたのがフレデリク・ワンダール選手でした。彼は頭部を強く打ち付け、意識不明の状態に陥ったとの情報も流れ、現場は騒然となりました。救急隊による懸命な処置の後、彼はトラウマヘリコプターで最寄りの病院へ緊急搬送されました。ヘリコプターでの搬送は、状況がいかに切迫していたかを物語っています。私もヨーロッパで数々のレースを取材してきましたが、ヘリが飛び立つ音を聞くたびに、選手の無事を祈らずにはいられません。今回のワンダール選手の場合も、まさにそんな緊迫した瞬間でした。

父親 セゴレーヌ・トマが明かす容態

事故から数日後、フレデリク・ワンダール選手の父親であるセゴレーヌ・トマ氏がメディアの取材に応じ、息子の容態について語りました。彼の言葉からは、事故の衝撃と、その後の回復への道のりが垣間見えます。「彼はとてつもない一撃を頭に受けた」と父親は語り、しかし「それ以外に何も起こらなかったのは幸運だった」と続けています。診断は重い脳震盪。事故当日の朝からの記憶が全くなく、前日に父親と電話で話したことも覚えていないとのこと。さらに、両目が腫れ上がり、メッセージを読むことすらできない状態だったといいます。

病院では複数回のCTスキャンが行われ、脳内に出血が確認されました。一時は重篤な状況も懸念されましたが、この出血は以前の事故によるものと判明し、それが今回の事故によるものではないと確認されたことで、彼は月曜日に退院することができました。約4日間、病院での懸命なケアが続けられていたのです。父親の「一時は退院できなかった」という言葉からも、医療スタッフの慎重な判断と、彼の状態が予断を許さなかった状況が伝わってきます。

早期回復への道、そして復帰はいつか

退院後、フレデリク・ワンダール選手はRed Bull-BORA-hansgroheのAthlete Performance Centreがあるオーストリアへ移動し、さらなる検査とリハビリを行う予定です。「適切な方法でリハビリが進むよう、追加の検査を行う」と父親は説明しています。重い脳震盪からの回復は、非常にデリケートなプロセスです。無理は禁物であり、慎重な段階を踏む必要があります。現時点で、彼のレース復帰時期は全くの未定です。チームも本人も、まずは完全に回復することを最優先するでしょう。

今回の事故は、改めてロードレースに潜む危険性を浮き彫りにしました。しかし、フレデリク・ワンダール選手が、あの衝撃的な落車とヘリ搬送にもかかわらず、命に別状なく、リハビリへと進むことができたのは、まさに奇跡と言えるかもしれません。もちろん、重い脳震盪は決して軽い怪我ではありませんが、最悪の事態を免れたことは、関係者一同にとって大きな安堵であるはずです。

ジロ・デ・イタリアなど他の主要レースが同時進行する中で、こうした事故のニュースは胸が締め付けられる思いがします。選手の皆さんは常に危険と隣り合わせで戦っているのです。フレデリク・ワンダール選手の一日も早い回復を、そして再びプロトンで力強く走る姿を見られる日を、心から願っています。頑張れ、フレデリク！