オムループ・デ・ケンペン2025を知る

オランダの歴史ある一戦「オムループ・デル・ケンペン」男女レースプレビュー：波乱か、スプリントか？山田健一が読み解く週末の行方

オランダ南部、北ブラバント州を舞台とする「オムループ・デル・ケンペン」は、1948年から続く非常に歴史のあるレースです。男子は今年で76回目、女子も28回目の開催となります。過去には多くのオランダ人選手が勝利を収めており、地元ファンにとっては特別な意味を持つ一戦と言えるでしょう。

昨年大会では、男子はMartijn Rasenbergが単独で逃げ切って勝利。2023年はCoen Vermeltfoortが優勝しています。また、2022年にはロエル・ファンシントマールテンスダイク SintmaartensdijkがArne Petersとのスプリントを制し、弟のDaan van Sintmaartensdijkと共に表彰台に上がったシーンも記憶に新しいですね。女子では、近年こそサラ・フィオリンやラケーレ・バルビエーリといったイタリア勢の優勝が目立ちますが、シャーロッテ・コール、Maike van der Duin、ロレーナ・ウィーベスといった地元オランダの有力選手も名を連ねています。

今年は例年とは少し趣が異なるようです。

NATO首脳会議がコースを変えた？ユニークな周回コースの舞台裏

今年のオムループ・デル・ケンペンは、スタートとフィニッシュ地点は例年通りフェルドホーフェンですが、コースレイアウトに大きな変更が加えられました。その背景には、この時期に開催されるNATO首脳会議による警察警備のリソース不足があるといいます。レースの安全確保に必要な警察官を十分に確保できないため、コース設計を根本から見直したというわけです。

具体的には、ネーテルセル周辺の石畳（カペ）区間を組み込んだ小さな43kmの周回コースを複数回回る形式となりました。これにより、警察による大々的な交通規制を行わずとも、交通整理員とブルグモータード（民間人のオートバイ誘導員）で安全を確保するとのこと。コースディレクターのCédric Louwers氏が語るには、サイドからの合流をほぼ排除し、周回コースも完全に封鎖するのではなく、先頭集団が来る10分前に規制をかけるという、なんともオランダらしい柔軟な対応策が取られています。

男子は183km、女子は122km。距離だけ見れば標準的ですが、このユニークな周回コース、特にカペ区間を何度も通過することが、レース展開にどう影響するかが最大の注目点でしょう。

男子エリート：混沌とした展開を制するのは？注目選手をピックアップ

VDL グループ オムループ・デル・ケンペンとして開催される男子レース。過去の大会を振り返ると、スプリントで決着することもあれば、終盤に集団がバラバラになることもあり、「予測不能」なレースと言えます。今年のコースはカペ区間が例年より多く組み込まれているため、集団が維持される可能性は低くなるかもしれません。

注目のチームとしては、ロットがヤルネ・ファンデパール de Paarのために集団スプリントに持ち込もうとするか。しかし、ヤルネ・ファンデパール de Paarは今年、苦しいシーズンを送っているようです。オランダのコンチネンタルチーム勢は、それぞれスプリンターを擁しながらも、積極的なアタックでレースを動かしに来るはずです。スプリンター候補としては、サラ・ローイ Hoogendoorn、Joost Nat、Daan van Sintmaartensdijk、Mathis Avondts、Daniel Stampe、Timothy Dupont、Jesper Rasch、そして前回覇者Coen Vermeltfoortの名前が挙がります。

しかし、WielerFlitsの予想を見ると、本命には逃げ切りやアタックでの勝利が期待されるTim Marsman（フォルカーヴェッセルズ・ウィメンズプロサイクリング チーム）を推しています。彼は今季、Olympia’s Tourでの区間優勝やTour du Loir et Cherでの好成績など、非常に調子が良い。フォルカーヴェッセルズ・ウィメンズプロサイクリング チームからはMax KroonenやTimo de Jongも有力候補です。その他にも、前回覇者のMartijn Rasenberg、Holland CupリーダーのMilan De Ceuster、Peter Schulting、Quinten Veling、Joeri Schaper、そしてあのJens Verbruggheの息子であるJens Verbrugghe、Roan Konings、Niek Hoornsmanなど、混沌とした展開の中でチャンスを掴みそうな選手が多数います。

私の見立てでは、コース変更によるカペ区間の増加が、純粋なスプリンターには厳しい展開をもたらす可能性があります。集団が絞られるか、あるいは小集団や単独での逃げ切りが決まる波乱のレースになるかもしれません。「この選手が勝つだろう」と断言するのが難しい、だからこそ面白いレースになる予感がします。

女子エリート：ワールドチーム勢揃い、スプリント女王は誰だ

土曜日に開催されるSimac オムループ・デル・ケンペンは、女子エリートのレースです。こちらは男子よりも豪華なメンバーが揃います。5つのワールドチームと2つのプロチームが出場。地元のチーム ヴィスマ・リースアバイクやフォルカーヴェッセルズ・ウィメンズプロサイクリング チームに加え、フェニックス・ドゥクーニンク、UAE・チーム・ADQ、ヒューマンパワードヘルス、AG Insurance-Soudalといった強豪が顔を揃えます。コフィディスも出場しますが、元世界チャンピオンのアマリー・ディデリクセンではなく、別のスプリンターにチャンスがあるかもしれません。

本命視されているのは、マルティナ・フィダンツァです。Festival Elsy JacobsやTrofee Maarten Wynantsでの勝利が示す通り、絶好調と言えるでしょう。彼女にはニンケ・フェインホーフェンという強力なリードアウトがついており、フィニッシュへの運びは盤石です。さらに、ニンケ・フェインホーフェン自身も勝てる力を持っていますから、チームとしては非常に有利な状況です。

しかし、マルティナ・フィダンツァにも強力なライバルがいます。Trofee Maarten Wynantsで2位だったテレザ・ネウマノバ、今季すでに好スプリントを見せているKathrin クリスティーナ・シュヴァインバーガー。そしてコフィディスからはヴィクトワール・ベルトーとヴァランティン・フォルタンというフランスの快速選手が出場します。

地元オランダ勢にもチャンスは十分あります。スカーレット・スーレンは今季すでに勝利を挙げていますし、Sofie van Rooijenも有力候補ですが、まだ2024年のレベルには達していないようです。Maike van der Duin、Danique Braam、フェムケ・ベウリング、ロンネケ・ウネケンといった選手たちも、地の利を活かして上位に食い込んでくる可能性があります。

WielerFlitsの予想では、マルティナ・フィダンツァを本命に、Kathrin クリスティーナ・シュヴァインバーガー、テレザ・ネウマノバを対抗。そしてスカーレット・スーレン、Sofie van Rooijen、Maike van der Duinを穴として挙げています。ワールドチームが多数出場するため、集団スプリントになる可能性は高いと見ていますが、男子同様、カペ区間の反復がレースをどう変えるか、注目したいところです。

波乱の可能性を秘めたオムループ・デル・ケンペン。週末のレースが今から楽しみです。グランツールの合間にも、こうしたローカルレースにこそドラマが隠されています。特に今回は、NATO首脳会議という思わぬ理由でコースが変わったという裏話も面白いですよね。皆さんもぜひ注目して、お気に入りの選手を見つけてほしいと思います。