ジロ2025 第9S シエナ：ストラーデ・ビアンケ砂利道 二つの戦い

コース徹底分析：シエナへのグラベルロード

今回の第9ステージは、グッビオをスタートし、トスカーナ地方の丘陵地帯を駆け抜ける181km。フィニッシュ地点は、もちろんシエナのシンボル、カンポ広場です。このステージの主役は、何と言っても「ステッラート」と呼ばれる5つのグラベル区間、合計約29.7kmです。

最初のグラベル区間、ピエーヴェ・ア・サルティはフィニッシュまで残り約67km地点から始まる8km。登り下りが混在し、ここで集団が細分化される可能性が高い。息つく暇もなく、約9kmのセラヴァッレ、そして9.4kmにも及ぶサン・マルティーノ・イン・グラニアが続きます。約30kmの間にグラベルが集中しており、ここで総合を狙う選手たちは文字通り「土俵際」に立たされるでしょう。

終盤にも、残り22km地点からの短いながらも勾配のきついグラベル、そしてストラーデ・ビアンケでもお馴染みのコレ・ピンズート（2.4km、勾配10%超）が待ち構えています。特にコレ・ピンズートの頂上はボーナスポイントが設定されており、ここで仕掛けたい選手は多いはず。頂上からシエナのカンポ広場までは残り14km。過去のストラーデ・ビアンケを見ても、ここでついた差は縮まるどころか、さらに広がる傾向にあります。最後の数百メートル、カンポ広場へ向かう急坂も選手たちの脚を削り取る難所。まさに、最後まで気の抜けないコース設計と言えます。

区間優勝候補たちの横顔

このグラベルステージ、やはり注目はクラシックハンターたちでしょう。中でも、直近のストラーデ・ビアンケで優勝（2023年）や上位入賞（2024年2位）を果たしているTom Pidcock（Q36.5）は筆頭候補と目されています。彼のグラベルでの巧みさ、そして最後のシエナへの登りでのパンチ力は誰もが認めるところです。

今大会、チームメイトであるマッズ・ピーダスンの3勝に大きく貢献し、その強烈な走りでファンを唸らせているマティアス・ヴァチェク（Lidl-Trek）も面白い存在です。彼のフィジカルの強さは、グラベル区間で大きな武器となるでしょう。ただし、彼はまだ総合上位に位置しており、チームが区間優勝のために彼を「逃げ」に乗せるかどうかは戦略次第。また、ストラーデ・ビアンケではまだ完走経験がない、という点は少し気になりますね。

そして、我らが日本のファンも気になっているであろうワウト・ファンアールト Aert（チーム ヴィスマ・リースアバイク）の状態です。彼は過去にストラーデ・ビアンケを制しており、本来であれば最大のライバルの一人です。今大会はまだ本調子ではないようですが、土曜日のステージでは復調の兆しを見せました。彼がもし、このグラベルステージで本来の走りを取り戻せば…ゾクゾクしますね。彼が逃げに乗るのか、それとも集団前方で展開するのか、その動きからは目が離せません。

総合勢のサバイバルバトル

このステージは、区間優勝争いだけでなく、総合争いにも大きな影響を与える可能性を秘めています。Primoz Roglic、フアン・アユソ（UAEチームエミレーツ・XRG）、Egan Bernal（Ineos Grenadiers）といった総合上位陣にとって、ここは文字通り「落とし穴」になりかねません。

特に注目したいのはEgan Bernalです。コメント欄でも触れられていますが、彼は2021年のジロでのグラベルステージで圧倒的な強さを見せ、ライバルを突き放しました。また、ストラーデ・ビアンケでも3位に入った実績があります。彼のグラベルでの安定感と、急勾配での爆発力は大きな武器です。イネオスがこのステージで積極的に仕掛けてくるという現地報道もあり、彼の走りは要チェックです。

一方で、グラベルでのパンクや落車といったメカトラブルのリスクも常に付きまといます。チームのサポート体制、そして選手自身の対応力が試される一日となるでしょう。総合上位陣がここでタイムを失うのか、あるいは逆にライバルに差をつけるのか。静かに見守るのではなく、彼らの表情や仕草から緊張感を読み取るのも、このステージの醍醐味と言えます。

二正面作戦の行方とダークホース

このステージは、総合上位陣が互いを牽制し合う中、区間優勝を狙う選手たちが逃げを打つ、いわゆる「二正面作戦」になりやすいタイプです。総合から大きく遅れているものの、グラベルやパンチ力のあるフィニッシュを得意とする選手たちが、この日を狙っていることは間違いありません。

Bahrain Victoriousのペリョ・ビルバオは、今年のストラーデ・ビアンケで5位に入っており、このコースへの適性は十分。総合からは離れていますし、逃げに乗る有力候補の一人でしょう。XDS Astanaも、現在ロザリーザ（マリア・ローザ）を着用するディエゴ・ウリッシを擁していますが、彼自身もグラベルを得意とする選手です。また、チームにはクリスティアン・スカローニ、ダヴィデ・フォルモロ、フィリッポ・ザナといったグラベル巧者が揃っており、複数枚のカードを切ってくる可能性があります。特に地元イタリア出身のスカローニやフォルモロは、このステージに特別な思い入れがあるはずです。

Movistarのアンドレア・ヴェンドラーメ、Alpecin-Deceuninckのクインテン・ヘルマンスも、クラシックレースで実績のある選手たち。Jayco AlUlaのフィリッポ・ザナ、Soudal Quick-Stepのポール・マニエもダークホース候補として名前が挙がっています。コメント欄でもポール・マニエのスター評価について議論がありましたが、若い彼の爆発力は未知数。ベテランの私から見ても、彼のポテンシャルは魅力的です。ただし、やはりこのコースの厳しさを考えると、経験値も重要になってくるかもしれません。

UAEチームエミレーツ・XRGも、総合エースのフアン・アユソを守りつつ、イサーク・デルトロ Toroのような選手が区間を狙う可能性もゼロではありません。デルトロは昨年のグラベル世界選手権にも出場しており、グラベルへの適性は高い。ただし、彼も総合上位に近い位置にいるため、逃げに乗るにはリスクが伴います。

雨がレースをさらに混沌とさせるか？

そして、このステージをさらに予測不能にしているのが、天気予報です。現時点では、シエナ周辺で雨が降る可能性が示唆されています。グラベルが濡れると、路面は滑りやすくなり、パンクや落車の危険性が一気に高まります。泥が跳ね上がり、視界も悪くなる。まさにサバイバルレースの様相を呈するでしょう。晴れていれば舞い上がる砂埃も厄介ですが、雨はまた違った厳しさをもたらします。機材選択やタイヤの空気圧など、チームのメカニックの腕の見せ所でもありますね。

休息日前のこのステージは、選手たちにとって文字通り総力戦となります。ここでタイムを失うことは、その後の山岳ステージに向けて大きな痛手となるからです。区間優勝を狙う選手たちの果敢なアタック、総合勢の緊迫した駆け引き、そしてグラベルがもたらすドラマ。

さて、皆さんはこのグラベル決戦、一体誰が制すると予想しますか？ 私も現地から、選手たちの息遣いが聞こえてくるような臨場感と、彼らの心理の機微まで読み解きながら、この熱戦を見届けたいと思います。次のステージも、どうぞお楽しみに！