世界のドーピング事例：スポーツ・国別に見る陸上競技の被害

皆さん、こんにちは。山田健一です。欧州のロードレースシーンから、今回は少し立ち止まって、スポーツ界全体を取り巻く非常に重要なテーマについて考えてみたいと思います。それは、ドーピング問題です。

ドーピング撲滅への光──自転車ロードレースが示す希望

スポーツ界では依然としてドーピングや不正行為のニュースが後を絶ちません。しかし、そんな中で一筋の光とも言える報告が届きました。**MPCC（Movimiento por un Ciclismo Creíble / 信頼できる自転車競技のための活動）**が発表した最新のレポートによると、2025年第1四半期における自転車ロードレース界のドーピングケースは、わずか4件にとどまっているというのです。

これは、他の競技と比較すると驚くほど少ない数字です。例えば、同じ期間に陸上競技では43件、ウエイトリフティングでは17件ものケースが報告されています。自転車ロードレースが、過去の暗い歴史を乗り越え、クリーンなスポーツへと着実に歩みを進めている証と言えるでしょう。

厳格な監視体制とMPCCの貢献

この成果の背景には、自転車界が長年かけて築き上げてきた厳格なアンチ・ドーピング体制があります。特に、MPCCのような組織が果たしている役割は非常に大きい。ラボラルクチャ・フンダシオンエウスカディを含む多くのチームが加盟するMPCCは、UCI（国際自転車競技連合）、ITA（国際検査機関）、WADA（世界アンチ・ドーピング機構）といった主要機関と連携しながら、ドーピングの撲滅を目指しています。

彼らの活動は多岐にわたります。定期的なコルチゾール検査の実施はもちろん、アスリートの健康を脅かす危険な手法への警告も怠りません。最近では、一酸化炭素吸入という、まさに「常軌を逸した」方法をUCIに働きかけて禁止させました。そして、この規制をWADAを通じて他のスポーツにも広げるよう訴えています。この粘り強い取り組みが、自転車界の透明性を高めているのです。

エリートレベルの清廉さと課題

特筆すべきは、この第1四半期に報告された4件のケースが、いずれもWorldTourやProTeamといったトップカテゴリーのチームではなかったことです。ポルトガル自転車連盟（UVP-FPC）がコンチネンタルチームの選手に対して導入した「生体パスポート」の拡大適用によって検出されたものがほとんどであり、これは監視の目がより下のカテゴリーにも及んでいることを示唆しています。

もちろん、検出から処分までに時間がかかるケースがあるなど、改善の余地がないわけではありません。しかし、少なくともエリートレベルの選手たちの間では、ドーピングに対する意識が格段に高まっているのは間違いありません。彼らが日々の厳しいトレーニングに真摯に向き合っている姿を、私たちは目の当たりにしているのですから。

世界のドーピング情勢と自転車の特異性

MPCCのレポートによると、2025年第1四半期にスポーツ界全体で報告されたドーピング、不正行為、汚職のケースは180件以上にのぼります。国別に見ると、インドが39件で突出しており、ロシア（22件）、パキスタン（12件）、フランス（10件）、アメリカ合衆国（10件）と続きます。幸い、スペインはこの上位に含まれていません。

テニス界ではヤニック・シナーやイガ・シフィオンテクといったトップ選手の名前が昨年ドーピング関連のニュースで取り沙汰されたことも記憶に新しいでしょう。また、WADAの次期会長選やアメリカ合衆国の拠出金問題、カースティ・コベントリーが初の女性、そしてアフリカ出身者としてIOC会長に選出されるなど、ドーピングを取り巻く国際的な情勢は常に動き続けています。コベントリー氏の「ありのままの自分で十分だと、若いアスリートに伝えることが重要だ」という言葉は、スポーツの本質を突いています。

なぜ、自転車ロードレースはこれほどまでにドーピング件数を減らすことができたのでしょうか？それは、過去の壮絶な失敗と、そこから学んだ教訓が大きいと私は見ています。ツール・ド・フランスを筆頭とするグランツールで幾度となく繰り返されたスキャンダルは、この競技の存続そのものを脅かしました。「もう二度とあの暗黒時代に戻ってはならない」という強い意志が、選手、チーム、主催者、そしてファンの中に宿っている。その集合的な意識が、厳しい監視体制と相まって、今日の清廉な状況を作り出しているのです。

未来への希望、そして継続への誓い

ワウト・ファンアールト、レムコ・エヴェネプール、ミケル・ランダ、エンリク・マス、タデイ・ポガチャル、マチュー・ファンデルプールといった、現代のスター選手たちが繰り広げるクリーンでエキサイティングなレースは、私たちファンに大きな感動を与えてくれます。彼らのパフォーマンスが、純粋な努力と才能の賜物であると信じられること。これこそが、スポーツの最も素晴らしい部分ではないでしょうか。

しかし、これで全てが終わったわけではありません。ドーピングとの戦いは、常に継続されるべきものです。新たな手法が生まれる可能性もありますし、監視の目をかいくぐろうとする者もゼロにはならないでしょう。だからこそ、MPCCのような組織の活動を支持し、選手たちのクリーンな姿勢を応援し続けることが大切だと感じます。

皆さんは、この自転車ロードレース界の現状をどう見ますか？そして、クリーンなスポーツを守るために、私たちファンにできることは何でしょうか？ぜひ、皆さんの考えも聞かせてください。