ジロ2025：忘れられないワウテル・ウェイラント、没後14年

ジロの開幕を前に、忘れられない「あの日」：ワウテル・ウェイラントを偲んで

皆さん、こんにちは。グランツール担当の山田健一です。

5月9日。この日付を聞いて、サイクルロードレースを長く追いかけているファンの方なら、ある悲劇を思い出す方も多いのではないでしょうか。そう、2011年のジロ・デ・イタリアで、ワウテル・ウェイラントが命を落とした日です。あれから早くも14年。もうそんなに経つのか、という思いと、つい昨日のことのように鮮明に記憶に残っている、という両方の感情が交錯します。

今年のジロ・デ・イタリアは、5月10日にアルバニアのティラナで開幕を迎えます。その前日である今日、この日を迎えるにあたり、どうしても触れておきたいことがあります。それは、ワウテル・ウェイラントという一人の才能あふれるスプリンターが、この世を去ってから14年が経った今もなお、ロードレース界、そして多くのファンの心の中で生き続けている、という事実です。

「あの日」の衝撃とロードレースの影

2011年5月9日、ジロ・デ・イタリア第3ステージ。レースはリグーリア州を進み、パッソ・デル・ボッコという峠を越える下りでの出来事でした。ワウテル・ウェイラントは、コントロールを失い、ガードレールに激突。その場で帰らぬ人となりました。

私は当時、現場にはいませんでしたが、遠く離れた場所で速報を聞いた時の衝撃は今でも忘れられません。ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアのようなグランツールは、華やかで、ドラマチックで、選手たちの超人的なパフォーマンスに酔いしれる最高の舞台です。しかし、同時に常に危険と隣り合わせであることも、私たちは知っています。特に高速での下りは、一瞬の判断ミスや不運なアクシデントが、取り返しのつかない結果を招くことがあります。ワウテルの事故は、そのことを改めて、そしてこれ以上ないほど痛ましい形で、私たちに突きつけました。

ペロトンに響く「Sempre con noi」

あれから14年。時代の流れと共に、ペロトンを走る顔ぶれは大きく変わりました。ワウテルと共に走っていた選手たちの多くは引退し、新しい世代が台頭しています。ワウト・ファンアールト、マッテオ・モスケッティ、デミ ボディネ・フォレリング、マーレン・ロイサー、マリアンヌ・フォス、ルイス・アスキー、ウィルコ・ケルデルマンといった現在のトップ選手たちは、ワウテルが活躍していた頃はまだプロになったばかりか、あるいはジュニアカテゴリーで走っていた選手もいるでしょう。

しかし、ワウテルの記憶は、決して薄れることなく、チームや選手たち、そしてジロの主催者によって大切に受け継がれています。彼の命日である今日、彼の元チームであるリドル・トレック（当時はレオパード・トレック）や、AGインシュランス・スーダル チーム Quick-Step（当時はクイックステップ）は、ソーシャルメディアで追悼のメッセージを発信しています。ジロ・デ・イタリアの公式アカウントも同様です。

共通してよく使われる言葉があります。イタリア語で「Sempre con noi」（センプレ・コン・ノイ）。「いつも私たちと共に」という意味です。そして、彼のゼッケン番号であった「#WW108」。これらの言葉やハッシュタグには、単なる形式的な追悼ではなく、彼の魂が今もペロトンの中に、そして共に走る仲間たちの心の中に息づいているのだ、という強い思いが込められているように感じます。異国の地で、イタリア語のこの言葉を聞くと、胸に迫るものがありますね。

安全への願いを込めて

ワウテルの事故は、ロードレース界における安全対策の議論を加速させるきっかけの一つとなりました。コース設計、機材の進化、選手への指導など、様々な面で安全性の向上が図られてきましたが、それでもリスクをゼロにすることはできません。だからこそ、選手たちは常に最大限の注意を払い、チームは万全のサポート体制を築き、そして主催者は可能な限りの安全策を講じる必要があります。

もうすぐ始まるジロ・デ・イタリア。激しいレースが繰り広げられる中で、選手たちが無事に、最高のパフォーマンスを発揮できることを願うばかりです。ワウテルの事故を忘れないこと。それは、彼の死を無駄にしないためであり、これから未来を走る選手たちの安全を守るためでもあります。

今年のジロでも、選手たちがパッソ・デル・ボッコのそばを通ることはないかもしれませんが、イタリアの山岳路を走るたびに、ワウテルのことを思い出す選手や関係者はきっといるでしょう。私たちファンもまた、彼を偲び、レースの安全を願う気持ちを忘れてはならないと思います。

まもなく始まるピンク色の祭典。熱戦を期待すると同時に、全選手が怪我なく、笑顔でフィニッシュラインを越えられることを、心から祈っています。