レムコ・エヴェネプール家族、SNSヘイトに法的措置検討

サイクルロードレースの世界は、時に光り輝く勝利のドラマだけでなく、影の部分も私たちに見せつけます。グランツールを中心に取材を続ける私の元に、なんとも胸が痛むニュースが飛び込んできました。ベルギーの若きスーパースター、レムコ・エヴェネプールとその家族が、SNS上の誹謗中傷に対して法的措置を検討しているというのです。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの結果が思わしくなかった後、SNSでの彼への批判はエスカレートしたと報じられています。プロ選手である以上、パフォーマンスに対する評価や批判は避けられません。しかし、それが選手個人、さらにはその家族への攻撃にまで及ぶというのは、決して許されることではありません。特に今回は、レムコ・エヴェネプールの妻、オウミ・ラヤネさんへの人種差別的な言葉まで含まれていたというのですから、事態は極めて深刻です。

SNSという名の「見えない暴力」

近年、SNSは選手とファンをつなぐ重要なツールとなりました。レースの舞台裏を知ることができたり、選手の素顔に触れたりと、その恩恵は計り知れません。しかし、同時に「見えない暴力」の温床ともなってしまっている側面があります。匿名性の高さから、普段は口にしないような心ない言葉が簡単に投げかけられる。それが、世界中のファンから集まれば、選手にかかる精神的な負担は想像を絶するものとなるでしょう。

今回のレムコ・エヴェネプールへの攻撃も、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュという注目度の高いレースでの結果が引き金になっているようです。もちろん、彼のパフォーマンスについて議論することは構いません。それはロードレースという競技の一部です。しかし、その批判が選手の人格否定や、全く関係のない家族への攻撃へと発展するのは、一線を越えています。

リエージュ後の波紋と、妻への心ない言葉

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュといえば、レムコ・エヴェネプールが過去に勝利を収めている得意なレースの一つです。そこで期待通りの結果が出なかったことで、一部のファンからの失望の声がSNSに溢れたのは想像に難くありません。しかし、問題はそこからでした。批判は次第に過激になり、遂には彼の妻であるオウミ・ラヤネさんへの攻撃へと矛先が向けられたと聞きます。

現地報道によると、その中には人種差別的なニュアンスを含むものもあったとのこと。さらに、あるジャーナリスト、ルーベン・ファン・グフト氏が、オウミさんの家族がレムコ・エヴェネプールに経済的に依存しているかのような示唆をしたことも、レムコ本人がSNSで強く非難しています。これらの心ない言葉が、一体どれほどレムコ・エヴェネプールやオウミさんを傷つけたか。想像するだけで胸が締め付けられます。

家族が動いた理由 〜「選手としてだけでなく、息子として」〜

今回のニュースで特に重く受け止めているのは、レムコ・エヴェネプールの父、パトリック・エヴェネプール氏のコメントです。「法的サービスに依頼した。止めなければならない。これはもはやアスリートについてだけでなく、私たちの息子についてなのだ」と語っています（ヘット・ニーウシュブラット紙の報道より）。

この「私たちの息子についてなのだ」という言葉に、親としての深い愛情と、問題の深刻さが凝縮されていると感じました。彼らは単に勝利を目指すプロアスリートであるだけでなく、一人の人間であり、誰かの大切な息子であり、夫なのです。そのプライベートな領域にまで踏み込み、誹謗中傷を繰り返す行為は、まさに「見えない暴力」であり、家族にとっては耐え難い苦痛だったに違いありません。法的措置の検討というのは、それだけ追い詰められ、他に手段がないと感じた結果なのでしょう。

トップ選手にかかる重圧と、SNS問題の今後

レムコ・エヴェネプールは、弱冠にしてグランツールや世界選手権を制した「ワンダーボーイ」です。その才能ゆえに、常に世界中の注目と期待を一身に集めています。ツール・ド・ロマンディに出場中の彼ですが、この騒動が彼のメンタルやパフォーマンスに影響を与えないか、非常に心配です。PogacarやVan der Poel、ゲラント・トーマス、ミケル・ランダ、エンリク・マスといった他のトップ選手たちも、同様のリスクに晒されていると言えるでしょう。

今回のレムコ・エヴェネプール一家の決断は、プロロードレース界全体に、SNSのあり方について改めて考えさせるきっかけとなるはずです。選手とファンとの健全な関係性を築くために、何が必要なのか。運営側、チーム、選手、そして私たちファン一人一人が、この問題と真剣に向き合うべき時が来ているのかもしれません。

レムコ・エヴェネプールがこの困難を乗り越え、再び素晴らしい走りを見せてくれることを心から願っています。そして、SNSが選手たちにとって、応援の力となるツールであり続けることを願ってやみません。