自転車連盟が危険なサイクリングルートに警鐘

自転車大国オランダの「盲点」

グランツールを追いかける私にとって、ヨーロッパの自転車文化はまさに「生活の一部」です。特にオランダは、その平坦な地形と自転車利用の歴史から、世界でも有数の「自転車大国」として知られています。プロの選手たちが当たり前のように自転車通勤し、国民の誰もが日常的に自転車を使う。そんなイメージをお持ちの方も多いでしょう。

しかし、先日発表された「Fietsersbond（オランダ自転車協会）」の調査結果は、その輝かしいイメージの裏に潜む「盲点」を浮き彫りにしました。彼らと建設業界団体の共同調査によると、オランダ国内の多くの自転車ルートが、実は非常に危険な状態にあるというのです。具体的には、狭すぎる自転車道、時速50kmから80kmものスピードで車が走る道路に自転車道が分離されずに混在している区間、そして危険な横断箇所が、自転車利用者の命を脅かしていると指摘されています。

プロの選手が走るあのスムーズな道路環境とは異なり、一般のサイクリストが日常的に利用する道には、まだまだ改善の余地がある。この事実は、自転車インフラの先進国ですら、常に安全への取り組みを怠ってはならないという強いメッセージを送っているように思えてなりません。

命を守るための「投資」の価値

オランダ自転車協会は、この状況を改善するために、今後30年間で23億ユーロ（日本円で約3,800億円）もの投資が必要だと試算しています。この巨額の投資によって、一体何が変わるのでしょうか？ 調査結果は驚くべき効果を示しています。それは、1万人以上の交通事故による負傷者と、220人もの命を救うことができるというのです。

さらに興味深いのは、この投資が単なるコストではなく、長期的に見れば経済的なメリットをもたらすという点です。交通事故による医療費や社会的な損失を考慮すると、この23億ユーロの投資は、30年間で91億ユーロ（約1兆5,000億円）もの費用削減に繋がるという試算も出ています。なるほど！安全なインフラ整備は、まさに「未来への投資」と言えるでしょう。

オランダ自転車協会のエスター・ファン・ガルデレン理事は、「安全な自転車道は命を救うだけでなく、より多くの人々が自転車を選ぶきっかけになります。それは健康的で持続可能な選択であるだけでなく、皆の幸福とウェルビーイングを高めます」と語っています。確かに！安全がなければ、どれだけ環境に優しくても、健康に良くても、人は自転車を選びません。この言葉は、日本の自転車政策にも深く響くのではないでしょうか。

「共有」が生む危険と「分離」の重要性

今回の調査で特に危険視されているのは、自動車と自転車が同じ車線を共有する「混在道路」です。時速50km、いや80kmにも達する自動車と同じ空間を、生身の体が剥き出しの自転車が共有する。想像するだけでゾッとしますよね。速度差が大きければ大きいほど、自動車のドライバーが自転車の存在に気づきにくくなり、特に右左折時には死角に入ってしまう危険性が高まります。

だからこそ、オランダ自転車協会は「フリー・サイクリング・パス（分離された自転車道）」の整備を強く求めているのです。自転車専用の空間を確保することで、自動車との接触事故のリスクを大幅に減らすことができる。これは、自転車の安全性を飛躍的に高めるための、最も効果的な手段の一つと言えるでしょう。

一方で、調査では自治体ごとの状況も明らかになりました。例えば、ラールテ、ウェスト・マース・エン・ヴァール、アハトカルスペレンといった自治体は、混在道路の割合が少なく、比較的良好な評価を得ています。へぇ～、特定の自治体が先行しているのですね。しかし、ウェステルウォルデ、ファルケンブルフ・アーン・デ・ヘウル、スタフォルストといった自治体は、この点で改善が必要とされています。それぞれの自治体の取り組みや地理的条件が、この差を生み出しているのかもしれません。

日本への示唆：自転車文化の深化のために

さて、オランダの事例は、私たち日本のサイクリストにとって、決して対岸の火事ではありません。日本でも、近年自転車の普及は進む一方で、インフラ整備が追いついていない地域は少なくありません。車道走行が原則とされながらも、十分な自転車レーンが確保されていない、あるいは自転車レーンがあっても駐車車両や障害物で走行が困難な場所も散見されます。

今回のオランダの議論は、SNSでも大きな反響を呼んでいました。コメント欄には「自転車の安全だけでなく、そもそも自動車に依存しすぎている社会を変えるべきだ」「大型車の税金を上げるべきだ」といった、より根本的な視点からの意見も多く見られました。これは、単なる自転車道整備の問題に留まらず、都市計画や交通政策全体を見直す必要性を示唆しています。そうだったのか！まさに社会全体の課題なんですね。

ロードレースファンとして、私たちは日頃から自転車に乗る機会が多いからこそ、この問題は決して他人事ではありません。安全な自転車環境がなければ、せっかくの素晴らしい自転車も、その性能を十分に発揮できませんし、何よりも安心してサイクリングを楽しむことができません。

終わりに

オランダの事例は、自転車大国であってもなお、安全なインフラ整備への弛まぬ努力が不可欠であることを教えてくれます。安全なインフラは、単に事故を防ぐだけでなく、スポーツとしてのロードレースの裾野を広げ、多くの人が自転車を「生活の足」として、あるいは「趣味」として楽しむきっかけを作ります。

日本でも、こうした議論がさらに活発化し、具体的な行動に繋がることを願ってやみません。皆さんも、日々のサイクリングの中で、安全な自転車道の重要性について改めて考えてみてはいかがでしょうか。次回のコラムも、どうぞお楽しみに！