マグニ、イタリアの英雄：フランドルを制した男

日本のサイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは！山田健一です。今回は、イタリアの英雄、フィオレンツォ・マーニの偉業に光を当てていきましょう。特に、彼が3度も制覇したロンド・ファン・フラーンデレン（ツール・デ・フランドル）について深掘りしていきます。

イタリアの誇り、フィオレンツォ・マーニ

第2次世界大戦後、ベルギーでは「犬とイタリア人入店お断り」という張り紙がされていた時代があったそうです。多くのイタリア移民が炭鉱で過酷な労働を強いられていた時代です。そんな時代に、一人のトスカーナ出身のサイクリスト、フィオレンツォ・マーニが現れました。彼は苦難と痛みに打ち勝ち、ベルギーの人々の心を掴み、イタリア人の名誉を回復させたのです。

コッピとマーニ、二人の英雄

1949年は、まさにサイクリングの歴史が変わる年でした。ファウスト・コッピがミラノ〜サンレモを制し、ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスを初めて制覇するという前人未到の偉業を達成。ジロではクネオ〜ピネローロの伝説的なステージで、ジーノ・バルタリに12分差をつける圧勝を見せました。ツールでは、フランス人選手との36分差を驚異的なタイムトライアルとアルプスでの逃げで逆転。まさにコッピの時代が到来したのです。

しかし、1949年はマーニにとっても特別な年でした。彼はベルギーの象徴的なレース、ロンド・ファン・フラーンデレンで初優勝を飾り、その後も連覇を達成。イタリア人として初めて、そして唯一の3連覇という偉業を成し遂げたのです。

ロンド・ファン・フラーンデレンの創設

ロンド・ファン・フラーンデレンは、オランダ人ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ワインエンダエレが新聞「Sportwereld」の創刊を記念して企画したレースです。1913年5月25日に第1回大会が開催され、37名の選手が参加。ゲントを午前6時に出発し、330km先のゲント郊外のマリアケールケをゴールとする過酷なレースでした。コースには12の「ミュール」（石畳の坂）が含まれ、道は舗装されていない箇所も多く、まさに地獄のようなレースだったと言えるでしょう。

第一次世界大戦とポール・デマン

第一次世界大戦によって、1915年から1918年までレースは中断されました。初代優勝者のポール・デマンは、ベルギーのスパイとして活動し、自転車に書類を隠して移動中にドイツ軍に逮捕されます。処刑寸前のところで終戦を迎えた彼は、戦後も再びレースに出場し、1920年にはパリ〜ルーベを制覇。パヴェ（石畳）のモニュメントレースであるロンドとルーベの両方を制した、史上22人のライダーの一人となりました。

マーニのロンド3連覇は、イタリアのサイクリング史における重要な出来事であると同時に、戦後の困難な時代を生き抜いたイタリア人たちの希望の光となりました。彼の不屈の精神と勇気は、今もなお多くのファンを魅了し続けています。

次のコラムでは、マーニのロンド3連覇の裏話や、当時のチームの戦略について、さらに深く掘り下げていきたいと思います。お楽しみに！