ポガチャルLBL制覇：予測通りも、期待の対決はまた不発

ポガチャル、リエージュを席巻！ 異常な春を締めくくる圧勝劇、メディアはどう見たか？

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。この歴史ある「ラ・ドワイエンヌ」で、またしても一人の男がすべてを支配しました。UAEチームエミレーツ・XRGのタデイ・ポガチャルです。ラ・ルドゥートでのアタック一発でライバルたちを置き去りにし、そのまま独走でフィニッシュラインへ。その強さは、まさに驚愕の一言でした。

現場で彼の走りを見ていると、そのペダリングから放たれる力のベクトルが、他の選手とは明らかに違うのが分かります。「まるで重力がないかのようだ」とでも表現したくなるような、軽やかでありながら破壊的な加速。あの瞬間、勝利の行方は決まった、そう確信しましたね。

今春のポガチャルは、本当に「異常」としか言いようがありません。UAEツアーでの総合優勝に始まり、ストラーデ・ビアンケ、ロンド・ファン・フラーンデレン、ワロンヌの矢、そしてこのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。モニュメント3勝を含む、春のクラシック戦線での圧倒的な成績。さらにミラノ〜サンレモ3位、パリ〜ルーベ2位と、出走したレースのほぼ全てで主役を演じました。

フランスのスポーツ紙『L'Équipe』も、「異常な春」と彼のシーズンを総括しています。そして、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュについては、「最も古く、最も予測可能なクラシックは、まさにその予測通りの展開となり、予想され、明確な勝者、タデイ・ポガチャルを生み出した」と、皮肉めいた表現で彼の強さを伝えています。そう、あまりに強すぎて、レース展開が単調にすら見えてしまう。それは、ポガチャルという選手が到達した孤高の領域を物語っているのかもしれません。

エヴェネプール、期待された対決は「オフデー」で不発

このリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで、世界中のファンが最も期待していたのは、間違いなくタデイ・ポガチャルとレムコ・エヴェネプールの頂上対決でした。前年の覇者であり、このアルデンヌクラシックを得意とするエヴェネプールが、ポガチャルにどこまで対抗できるのか。誰もが固唾を飲んで見守っていたはずです。

しかし、レースは非情でした。勝負どころのラ・ルドゥートで、ポガチャルがアタックした時、エヴェネプールは追走する力を見せられませんでした。ベルギーのメディアは、この結果を厳しく報じています。『Het Nieuwsblad』は「期待された対決はまたしても叶わず：タデイ・ポガチャルがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの3度目の勝利に向けて皆を吹き飛ばす、レムコ・エヴェネプールは氷を突き破る（調子を崩す）」と見出しを打ち、『Het Laatste Nieuws』も「オフデー」だったと伝えています。

確かに、現場でエヴェネプールの走りを見ていると、いつもの爆発的な加速が見られませんでした。表情にも少し精彩を欠いていたように感じます。彼はこのレースに向けて調整してきたはずですが、何かが噛み合わなかったのでしょう。ダブルオリンピックチャンピオンとはいえ、常に最高のパフォーマンスを出すのは難しい。これがサイクルロードレースの厳しさでもあります。

スポルト紙『Sporza』は、「タデイ・ポガチャルは再び世界最高の選手であることを証明した」としつつ、「レムコ・エヴェネプールは終盤に完全に沈んだ」と、対照的な両者の姿を描写しています。期待が大きかっただけに、エヴェネプール自身の落胆も大きいはずです。彼はこの後、ロマンディで再起を図る予定だと聞きます。この経験を糧に、どのように立て直してくるのか、注目したいところです。

モニュメント9勝目！ エディ・メルクス超えは現実となるか？

タデイ・ポガチャルのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ3勝目は、彼にとってモニュメント通算9勝目となりました。これは、ファウスト・コッピやショーン・ケリーといった伝説的な選手たちに並ぶ記録です。しかし、イタリアのスポーツ紙『La Gazzetta dello Sport』が最も注目しているのは、その先にある記録です。そう、モニュメント19勝を誇る「食人鬼」、エディ・メルクスの不滅と思われた記録です。

『La Gazzetta dello Sport』は、「信じられないことに、ポガチャルはまだプロ7年目だ」と指摘し、「『食人鬼』の侵しがたいと思われた記録を破ることができるだろうか？我々はこれがポガチャルの究極の挑戦になると確信している」と報じています。26歳にして9勝。このハイペースを考えれば、メルクスの記録が射程圏内に入ってきた、そう言わざるを得ません。

スペインの『Marca』はポガチャルを「巨像（コロッソ）」と呼び、「史上最高のサイクリストランキングをリードする運命にある」とまで断言しています。また『AS』紙も、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの勝利は「困難なく」達成されたとし、「このリエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、スロベニア人の支配のために歴史書には残らないだろう」と、そのあまりの強さゆえにレース自体が記憶に残りにくいだろう、という興味深い論調を展開しています。

モニュメント19勝という記録は、あまりにも巨大です。しかし、ポガチャルがこれまでのキャリアで見せてきたパフォーマンス、そしてその年齢を考えると、不可能ではない、むしろ現実的な目標として見えてきました。彼がこの記録にどこまで迫れるのか、あるいは超えられるのか。それは、今後の彼のキャリアにおける最大のストーリーとなるでしょう。

各メディアが語る「予測可能」なレースと、その背景

今回のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、多くのメディアが「予測可能だった」と評しています。『AS』紙が「人生は続く、またいつもの一日、グラウンドホッグ・デー…」とまで表現するほど、ポガチャルの勝利は既定路線のように受け止められていたのです。なぜ、これほどまでに予測可能なレースになったのでしょうか。

その最大の要因は、もちろんタデイ・ポガチャル自身の圧倒的な強さです。彼は今春のクラシックで、文字通り「皆を打ち負かした」のです。対抗馬として期待されたレムコ・エヴェネプールが「オフデー」だったことも、レースの予測可能性を高める要因となりました。

しかし、ポガチャルが強すぎるからといって、他の選手たちが諦めていたわけではありません。イタリアの『La Gazzetta dello Sport』が「英雄的」と称賛したジュリオ・チッコーネのように、ポガチャルに続く「ベスト・オブ・ザ・レスト」を目指して、懸命にレースを戦った選手たちがいました。チッコーネの2位、ベン・ヒーリーの3位は、彼らの意地と努力の賜物です。

ただ、残念ながら、ポガチャルがあまりに抜きん出ていたため、彼らの奮闘が霞んで見えてしまったのも事実です。あるフォーラムのコメントでは、「エヴェネプールとポガチャルの対決は、リエージュで何度も行われている」という意見も見られます。確かに、過去には激しいバトルもありました。だからこそ、今回も期待が高まっていたのです。しかし、今回はポガチャルが一段上のレベルにいた、ということでしょう。

次なる舞台へ、ポガチャルの挑戦は続く

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの圧勝劇をもって、タデイ・ポガチャルの春のクラシックシーズンは幕を閉じました。彼はこの後、グランツールの一つ、ジロ・デ・イタリアへとその照準を合わせます。ジロ、そしてツール・ド・フランスという、前人未踏の「ダブル」達成を目指す彼の挑戦は、これからが本番です。

一方、レムコ・エヴェネプールは、リエージュでの悔しさをバネに、ロマンディで立て直しを図ります。彼の真の目標は、夏のツール・ド・フランスでポガチャルや他の強豪たちと再び渡り合うことでしょう。

ポガチャルの圧倒的な強さ、そしてそれを追いかけるライバルたちの存在。今年のサイクルロードレースは、この二人の物語を中心に展開していく予感に満ちています。ジロ・デ・イタリア、そしてツール・ド・フランスと、これから始まる壮大な戦いから、ますます目が離せません。私も現地メディアの動きを追いながら、彼らの動向、そして言葉の端々に隠された本音を読み解いていきたいと思っています。次なる舞台での熱い戦いに、どうぞご期待ください。...