ティボー・ネイス、ベルギー・ツアーに向けて本調子にあらず（ツール・ド・フランスにも暗雲？）

ティボー・ネイス、落車の影響と揺れる自信：ツール・ド・フランスへの試練

22歳という若さで、すでにトップクラスの片鱗を見せつけているティボー・ネイス選手。Lidl-Trekのエース候補として、今年のツール・ド・フランス初出場を目標に掲げていましたが、その準備は決して順調ではありませんでした。高地合宿中の落車が、彼のコンディションに大きな影を落としているのです。

私が現地で取材した際、ネイス選手は開口一番、「あの落車は本当にひどいもので、その後の数週間に深刻な影響を与えました」と、苦渋の表情で語ってくれました。本来、シエラネバダ山脈での高地合宿は、夏のシーズンに向けて理想的なステップアップとなるはずでした。しかし、5月末のダウンヒルでのアクシデントが、全てを狂わせたのです。「正直、合宿から戻った時も期待したほどの状態ではありませんでした。完全に回復したとは思いますが、最後の数パーセントがまだ足りない気がします」と彼は打ち明けます。

それでも、GPギッピンゲンでニールソン・パウレス選手（レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ）に次ぐ2位に入ったことは、ポジティブな兆候と言えるでしょう。この結果が、彼にわずかながらも自信を取り戻させたことは間違いありません。この一戦が、バロワーズ・ベルギー・ツアー、そしてその先のツール・ド・フランスへと繋がる重要なステップとなるか、注目が集まります。

バロワーズ・ベルギー・ツアー、総合狙いとタイムトライアルの壁

今回のバロワーズ・ベルギー・ツアーは、ティボー・ネイス選手にとって、自身の状態を測る重要な試金石となります。彼自身も、「まだトップフォームではないのは確かです。今週のレースで、どこまで行けるか見極めたい」と慎重な姿勢を見せています。科学的なトレーニングを重ねてきたとはいえ、それがそのままレースでの結果に直結しないのがロードレースの奥深さ。「純粋な科学ではないんです」という彼の言葉は、まさにその真理を突いています。

ネイス選手は今シーズン、フレッシュ・ワロンヌで8位、リエージュ～バストーニュ～リエージュで5位と、アルデンヌクラシックで印象的な走りを見せました。その勢いをベルギー・ツアーでも継続し、初の総合優勝を狙いたいと考えているようです。特に、デュルビュイへのアルデンヌ山岳ステージは、彼にとって得意な地形となるでしょう。

しかし、総合を狙う上で避けて通れないのが、約10kmの個人タイムトライアルです。タイムトライアルスペシャリストであるフィリッポ・ガンナ選手のような選手を相手に、いかにタイムロスを抑えるかが鍵となります。ネイス選手もその重要性を認識しており、「タイムトライアルはまだ完璧ではありませんが、これまで以上に力を入れて取り組んできました。30秒以内のタイムロスに抑えられれば、大成功だと思います」と語っていました。若手選手がグランツールで通用するためには、タイムトライアルの強化は避けて通れない道。このベルギー・ツアーが、彼の弱点克服に向けた第一歩となるか、私も非常に興味があります。

ツール・ド・フランス選考の行方とチーム内での役割

ティボー・ネイス選手にとって、ツール・ド・フランスへの選考はまだ確定していません。バロワーズ・ベルギー・ツアーでのパフォーマンスが、その最終決定に大きく影響するでしょう。「健康な状態で、今週自分を証明できれば、ツール・ド・フランスでの自分の居場所は確実に見つけられるはずです。最高のレベルに到達できれば、出場するに値すると思います」と、彼は強い意欲を見せています。

Lidl-Trekのツール・ド・フランスチームにおいて、ネイス選手がどのような役割を担うのかも注目点です。チームにはすでに、強力なスプリンターであるジョナタン・ミラン選手がいます。ネイス選手自身も、「リードアウトの役割はすでに固まっていると思いますし、そこに私の場所はないでしょう。それはそれで構いません。チームには経験豊富な選手がたくさんいますから」と、現実的に自身の立ち位置を理解している様子でした。彼の言葉からは、チームの勝利のために自身の役割を全うしようとするプロ意識が感じられます。

彼は、自身の役割を「少し難しいステージ」と見据えているようです。つまり、スプリンター向けの平坦ステージではなく、登りやテクニカルなセクションを含む、より起伏のあるステージでの活躍が期待されているということでしょう。若手ながらも、チーム戦略の中で自分の強みをどう活かすかを冷静に分析している姿は、まさにトッププロのそれです。

果たして、ティボー・ネイス選手は万全の状態でツール・ド・フランスのスタートラインに立てるのか。そして、そこでどのような輝きを見せてくれるのか。バロワーズ・ベルギー・ツアーでの彼の走りが、その答えを導き出す重要な手がかりとなるでしょう。日本のファンの皆さんも、ぜひ彼の挑戦に注目してください。私も引き続き、現地からの情報をお届けしていきます。