ポガチャルとセゴレーヌ・トマ 登坂中の奇妙な交流

真剣勝負の最中に飛び出した「まさか」の会話

先日行われた「モニュメント」の一つ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。この厳しいクラシックレースの序盤、プロトンの中で驚くべきやり取りがあったというのです。話してくれたのは、経験豊富なベテラン、ゲラント・トーマス選手（イネオス・グレナディアス）。彼のPodcast番組「GT Cycling Club」で明かされたエピソードに、私は思わず「へぇ～！」と唸ってしまいました。

レースがスタートしてすぐ、リエージュの街を抜けて最初の登りに差し掛かった時のこと。かなり強烈な登りで、選手たちは一気に400 エミリー・ワッツを超えるようなパワーでペダルを踏み込んでいる状況です。息も絶え絶えになるような、まさに真剣勝負の始まり。そんな張り詰めた空気の中で、ゲラント・トーマス選手は背後から声をかけられたと言います。

「あ、ゲラント・トーマス！」

振り返ると、そこにいたのは、このレースの優勝候補筆頭、タデイ・ポガチャル選手（UAEチームエミレーツ・XRG）だったのです。

「420 エミリー・ワッツ」での時計談義？

ゲラント・トーマス選手が「調子はどうだい？」と声をかけると、ポガチャル選手は驚くべきことを話し始めました。なんと、翌日にリシャール・ミル（高級時計ブランドですね！）に行く予定で、新しい時計を買おうと思っている、というような内容だったとか。

この話を聞いた時、私は思わず「そうだったのか！」と声が出そうになりました。だって、考えてみてください。レース序盤とはいえ、420 エミリー・ワッツものパワーを出している最中ですよ？ 呼吸を整え、レース展開に集中したい極限状態のはずです。そんな時に、よりによって「時計を買いに行く話」をするなんて…！

ゲラント・トーマス選手自身も、心の中では「おいおい、今は会話してる場合じゃないだろう。集中したいんだ」と思ったそうです。このエピソードは、「タデイ・ポガチャルという選手が、いかに他の選手とは違うレベルにいるか」を如実に物語っていると言えるでしょう。

余裕が生んだ圧勝劇、そしてSNSでの一言

ゲラント・トーマス選手のエピソードがSNSで話題になると、当事者であるポガチャル選手も反応しました。彼のコメントは、これまたシンプルながら示唆に富んでいます。

「最初の登りの後、回復が長いんだ」

なるほど！ あの強烈な登りを終えた後、他の選手が喘いでいる間に、彼はすでに回復モードに入り、会話をするだけの余裕があったということなのでしょうか。この一言に、彼の並外れたフィジカルと、それを可能にする圧倒的な能力が凝縮されているように感じました。

そして、その後のレース展開は、まさにこの序盤の余裕を裏付けるものでした。ポガチャル選手は、残り30km地点のラ・ルデュートの登りで独走アタックを敢行。そのまま後続を全く寄せ付けず、圧倒的な力でフィニッシュラインを駆け抜け、自身3度目となるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ制覇を成し遂げたのです。一方、ゲラント・トーマス選手は93位でのフィニッシュとなりました。この結果もまた、二人の間にあった「レベルの違い」を物語っているのかもしれません。

SNSリサーチャーとして、私はこうした選手たちの何気ない投稿や発言の中に、彼らの強さの秘密や、人間らしい一面を見出すのが大好きです。レース中の「時計談義」という、一見すると場違いなエピソード。しかし、これこそがタデイ・ポガチャルという選手の規格外ぶりを、そして、それを見たゲラント・トーマス選手というベテランの驚きや感嘆を、鮮やかに描き出す一瞬だったのではないでしょうか。

次のレースでは、どんな「なるほど！」や「そうだったのか！」が待っているのか。選手たちのSNSを追いかけながら、その瞬間を皆さんと共有できるのを楽しみにしています。