ラ・レドゥートの丘：勝負の分かれ目？

ラ・ルドゥート、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュの命運を握る鍵か、それとも…？

サイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは！ジャーナリストの松崎 愛です。世界中を駆け巡るレース情報を追いかける日々ですが、やはりクラシックレース、それもアルデンヌの女王「リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ」は格別ですね。特に近年、そのコース変更によって、ある象徴的な登りの重要性がかつてないほど高まっています。そう、ラ・ルドゥートです。この伝説的な「丘（コート）」が、レースの勝敗を分ける決定的な舞台となっているのでしょうか？それとも、その存在が逆にレースを単調にしてしまっているのでしょうか？今回は、選手たちの生の声やチームの戦略から、ラ・ルドゥートがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに与える影響を深掘りしてみたいと思います。

新時代の主役となったラ・ルドゥート

2019年にゴール地点がアンスの丘の上からリエージュ市街中心部に戻されたことで、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのフィナーレは劇的に変わりました。これにより、ラ・ルドゥート（頂上まで残り34km地点）の存在感が一気に増したのです。Lidl-Trekのジュリアン・ベルナール選手が「ラ・ルドゥートで会おう、と言ってもリスクはない」と笑うように、今や多くの有力選手がこの登りを勝負所と定めています。

さらに、レムコ・エヴェネプール選手やタデイ・ポガチャル選手といった、ラ・ルドゥートから独走を仕掛けて勝利を掴める「クレイジーな花火師世代」の台頭が、この傾向に拍車をかけています。彼らはラ・ルドゥートを理想的な「跳躍台」として利用し、2022年、2023年にはレムコ・エヴェネプールが、昨年はタデイ・ポガチャルがここで勝利への決定的な一歩を踏み出しました。まさに、ラ・ルドゥートは新時代のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュの主役となったと言えるでしょう。

ラ・ルドゥート後の展開、そして「リスキー」なラ・ロッシュ・オー・フォーコン

ジュリアン・ベルナール選手によると、ラ・ルドゥートからのアタックは非常に効果的だといいます。「リーダーたちはそこからレースを仕掛けることをもう恐れていない。後ろでチームが態勢を立て直す時間はほとんどないんだ」。ラ・ルドゥートを登り切ると、非公式ながら新たにコースに組み込まれたコルヌモン、そしてレ・フォルジュ、最後にラ・ロッシュ・オー・フォーコンと、休む間もなく登りが続きます。特にラ・ルドゥートの頂上まで登り切らず、右に曲がるコース変更が、アタックをより長く、レ・フォルジュまで持続させるのを助けていると、レムコ・エヴェネプール選手も語っています。「本当にアタックしやすいね。レ・フォルジュまで長い間力を出し続けられるし、追いつくのが難しくなる」。

一方で、ゴールまでわずか13km地点にあるラ・ロッシュ・オー・フォーコンに全てを賭けるのは「リスク」だと、Groupama-FDJのギヨーム・マルタン-Guyonnet選手は指摘します。「実際、本当にきついのはたった1kmだけ。全員をふるい落とせる保証はないんだ」。つまり、ラ・ルドゥートからのアタックは、その後の連なる登りを利用して後続との差を広げるのに最適であり、ラ・ロッシュ・オー・フォーコンを待つよりも確実性が高い、という判断が働くのでしょう。

ラ・ルドゥートへのアプローチがレースを「固定化」する？

では、ラ・ルドゥート以前の展開はどうなっているのでしょうか？ヴァランタン・マドゥアス選手に「ラ・ルドゥートがレースに重くのしかかりすぎているか？」と尋ねると、彼は間髪入れずに「イエス」と答えました。「ラ・ルドゥートへのアプローチにある、あの長くて急な下りが、動きのあるレースを妨げているんだ」。

デニエの下りでは、時速90km/h近くに達することもあると言います。ここで10秒稼ごうと必死に踏んでも、後ろの集団にあっという間に飲み込まれてしまう。ヴァランタン・マドゥアス選手は「後ろでは位置取り争いが熾烈で、それが選手を消耗させる」と語り、サラ・マルティン-Guyonnet選手も「4、5人のグループでも、あっという間に30秒失う可能性がある」と付け加えます。このアプローチの難しさが、ラ・ルドゥート以前での仕掛けを躊躇させているのです。

もっと早く仕掛ける可能性は？ロジエは「十分にきつくない」（ジュリアン・ベルナール選手）。オート・ルヴェの後には少し落ち着く瞬間があるものの、ヴァランタン・マドゥアス選手は「仕掛ける場所は限られているし、アシストたちがまだフレッシュすぎる」と分析します。ラ・ルドゥートの位置をもっとゴールから遠ざけるべきか、という疑問も浮かびますが、現状ではラ・ルドゥートこそが最も現実的な「飛び出し口」となっているのです。

チーム戦略に見るラ・ルドゥートへの執着

チームの戦略も、ラ・ルドゥートの重要性を物語っています。Lidl-Trekのスポーツディレクター、Kim スザンヌ・アンデルセン氏は、ラ・ルドゥート以前での動きは風向きが悪いため難しいと分析しています。ベルギーで最もきついと言われるコル・ド・オーシールのような登りも、位置が早すぎて風向きも逆風になるため、決定的なアタックには繋がりにくい、と。

特に興味深いのは、UAEチームエミレーツ・XRGの選手選考です。ヴァランタン・マドゥアス選手は、フランドルやアムステルゴールドレースで好調だったヤン・クリステン選手ではなく、よりルーラー（平坦や下りが得意な選手）タイプのフロリアン・フェルミールス選手が選ばれたことに注目しています。これは、チームがラ・ルドゥートまでのアプローチ区間を完全にコントロールし、「固定化」されたシナリオ、つまりラ・ルドゥートでのタデイ・ポガチャル選手のアタックに全てを賭ける意図の表れではないでしょうか。

ラ・ルドゥートは、確かにリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに劇的なフィナーレをもたらす舞台となりました。しかし、その重要性が高まるあまり、レース全体の展開が単調になってしまっている側面もあるのかもしれません。今年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでは、ラ・ルドゥートで何が起こるのか、そしてそれを阻止しようとするチームや、あるいはラ・ルドゥート以前から展開を動かそうとする選手は現れるのか。世界中から集まる情報網を駆使して、その瞬間を見届けたいと思います。皆さん、今年のリエージュも目が離せませんよ！