スペインの先駆者パウ・マルティ、快挙達成「多くの歴史がある」

若き才能が刻んだ新たな歴史：「赤いツール」制覇の衝撃

先週末、サブ23カテゴリーの最も権威あるレースの一つ、「平和のレース」で、スペイン自転車界に新たな歴史が刻まれました。弱冠20歳のパウ・マルティが、この難関レースで初のスペイン人総合優勝を果たしたのです。通称「赤いツール」として知られるこの大会での勝利は、彼にとって、そしてスペインにとって、まさに金字塔と言えるでしょう。

「本当に感動的でした。ジュニア時代以来、ナショナルチームでの初めての勝利だったので、僕にとってすごく特別なことなんです」と、興奮冷めやらぬ表情でパウは私に語ってくれました。彼の故郷であるモイシェントで2004年に生まれたこの若者は、ボーナス秒が総合優勝の鍵を握るという、極めて僅差の戦いを制しました。最終日のステージでは5位に終わったものの、総合優勝のライバルたちを抑え込み、デンマークのシモン・ダルビーにわずか2秒差という劇的な勝利。その笑顔には、歴史を塗り替えた誇りと、何よりも純粋な喜びが溢れていました。

「東のツール」が秘める伝説と未来のスターたち

「平和のレース」は、単なるサブ23カテゴリーのレースではありません。1948年、鉄のカーテンの向こう側で産声を上げたこの大会は、長きにわたり「東のツール」として、ヨーロッパの自転車史に深く刻まれてきました。ポガチャル、ゴデュ、ファンイートフェルトといった、今や世界のトップを走る選手たちも、このレースを経験し、その名を轟かせてきた登竜門なのです。

過去には、1975年にフアン・ホセ・モラルやエンリケ・マルティネス・エレディアといったスペイン人選手がステージ優勝を飾っていますが、総合優勝は今回が初めて。パウ自身も「その時のことは本になっていると聞いています。ステージ優勝した選手の一人の息子さんが書いた小説で、その話は知っています」と、歴史への敬意を示していました。冷戦時代にスパイが暗躍したという背景を持つ『スパイの地での勝利』という小説にまでその物語が描かれているというから、このレースがいかに特別な存在であるかが窺い知れます。スペイン自転車界にとって、この勝利は単なる栄光だけでなく、長年の宿願達成という重みも伴っているのです。

勝利を支えた揺るぎないチームワーク

パウ・マルティの歴史的勝利は、彼個人の才能だけでなく、チームの献身的なサポートなしには語れません。パスクアル・オレンゴ監督率いるスペインナショナルチームは、まさに鉄壁のブロックとして機能しました。ジャウメ・グアルデニョ、イバイ・アサンサ、ウーゴ・アスナル、Martín Rey、そしてIbán シェイラ・グティエレスといったチームメイトたちが、各ステージでリーダーを守るために文字通り力を出し尽くしたのです。

「初日から、彼らは僕を信じてくれ、最高の仕事をしてくれました。最終日も完璧にレースをコントロールしてくれたおかげで、僕はゴールでのボーナス秒は取れなかったけれど、総合優勝候補の中では一番でした」とパウはチームへの感謝を惜しみません。彼らの揺るぎない信頼関係と、勝利への強い意志が一つになった結果、この快挙が生まれたことは疑いようがありません。取材を通じて、チーム内での選手たちの絆の深さ、そして若きリーダーを支えようとする強い意志をひしひしと感じました。

未来を見据える若き才能：グランツールへの道筋

パウ・マルティは、現在Israel Premier チーム ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ Academyに所属し、2年間の契約延長をしています。昨年にはワールドツアーチームから2つのオファーがあったものの、彼はあえて2つのディビジョンを行き来する現在の環境を選びました。この決断は、彼の着実な成長戦略の表れと言えるでしょう。

これまでのキャリアでも、2024年のジロ・ネクストジェンでの表彰台、ヴォルタ・ア・アレンテージョやヴォルタ・ア・アストゥリアスでの好成績など、着実に実績を積み重ねてきました。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュやクラシカ・ハエンのような重要なレースにも出場し、経験を積んでいます。サイクロクロスからロードレースに転向し、フェリペ・オルツに憧れてきたという彼のルーツも興味深いですね。

「今はすごく調子がいいです。ファーストチームからもチャンスをもらえて、本当に嬉しい。ルーベン・プラサが近くに住んでいて、彼にテストをしてもらったことがきっかけで、代理人のホルヘ・キンタナがジュニア時代から僕を信じてくれたんです」と、自身のキャリアを支える人々への感謝も忘れません。

「平和のレース」の勝利を祝う間もなく、パウの目はすでに次の大きな挑戦、ジロ・ネクストジェンに向けられています。「野心を持って臨みます。良い結果を出したい。その後は世界選手権、そしてツール・ド・ラヴニールにも出られたら嬉しいです。大事なのはこれからですから」と、力強く語る彼の言葉からは、未来のグランツールでの活躍を予感させる輝きが感じられました。

パウ・マルティの勝利は、単なる一レースの優勝にとどまらず、スペイン自転車界の新たな夜明けを告げるものかもしれません。彼の今後の活躍から、ますます目が離せませんね！