ログリッチへの注目とレッドブル・ボーラ計画

皆さん、こんにちは。グランツール担当の山田 健一です。今年もイタリアの地から、熱戦が繰り広げられているジロ・デ・イタリアの模様をお届けします。

今年のジロ、序盤戦から注目を集めているのが、チーム レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのエース、Primoz Roglicです。2023年大会覇者である彼が、今大会も優勝候補の筆頭として、ライバルたちの視線を集めています。現地で取材していると、彼の落ち着きと、チームの揺るぎない自信がひしひしと伝わってくる。しかし、その一方で「本命」であることの難しさも感じているようです。

ログリッチ、序盤戦で示した強さ

Primoz Roglicは、今大会も早々にその存在感を誇示しました。特に印象的だったのは、第2ステージ、ティラナで行われた個人タイムトライアルです。ここでは、若き怪物ジョシュア・ターリング（イネオス・グレナディアーズ）に惜しくも敗れたものの、区間2位に入り、貴重なボーナスタイムを獲得。この結果、彼はわずか一日ではありましたが、大会最初のマリア・ローザに袖を通しました。

その後、マッズ・ピーダスン（Lidl-Trek）がヴロラでのステージを制して総合首位に立ちましたが、ログリッチは現在、総合2位をキープしており、その差はわずか17秒。しかも、すでにフアン・アユソ（UAEチームエミレーツ）をはじめとする他の総合ライバルたちに対して、数秒のアドバンテージを築いています。これは、彼がコンディションをしっかりと整えてきたことの何よりの証拠でしょう。今後の山岳ステージや、第2の個人タイムトライアルが勝負の鍵となることは明らかですが、その時こそPrimoz Roglicが真価を発揮する時だと、誰もが確信しているはずです。

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエの戦略とチーム力

チーム レッドブル・ボーラ・ハンスグローエの戦略は明確です。チームディレクターのパチ・ヴィラ氏に話を聞く機会がありましたが、彼は力強くこう語っていました。「我々はマリア・ローザのために集中している。ツールのことはその後だ」。チーム内からツールの話が出ていることへの牽制も含め、まずはジロ優勝に全力を注ぐという強い意志が感じられます。

パチ氏はジロというレースについても熱く語ってくれました。「ジロは私が最も好きなレースだ。ここでは毎日何かが起こりうるし、サプライズもある。ローマまで一切気が抜けないんだ」。その言葉からは、予測不能な展開こそがジロの魅力であり、だからこそチームとして万全の準備が必要だというプロフェッショナリズムが垣間見えます。

チーム体制についても、彼は満足げでした。「ヒンドレーやダニエル・マルティネスといった強力なクライマーがいる。それぞれの役割が明確で、それがチームにとって良い方向に作用している」。エースであるログリッチの準備についても触れ、「プリモシュは必要なことをやった。ジロに向けてより落ち着いて準備を進めたんだ。彼は歳を重ねているし、レースでは全てをコントロールできない。だが、トレーニングではそれが可能だ。これまでより負担の少ない調整だったし、チームもそれに同意した」。ベテランとなったログリッチに合わせた、緻密な調整が功を奏しているようです。

ライバルたちの動向と今後の鍵

もちろん、ログリッチにとって道は平坦ではありません。最大のライバル候補と目されているフアン・アユソを擁するUAEチームエミレーツの強さは特筆ものです。パチ・ヴィラ氏も「アユソは同じレベルにいる。彼は素晴らしいスタートを切ったし、既に最高の選手たちを相手に勝つという最も難しいステップをクリアした」と警戒心を露わにしています。しかしその一方で、「だが、我々には大本命がいる」と、ログリッチへの絶対的な信頼を示しました。

総合上位には、マッズ・ピーダスンとマティアス・ヴァチェクのLidl-Trek勢、そしてUAEチームエミレーツのブランドン・マクナルティ、イサーク・デルトロ Toro、フアン・アユソがひしめき合っています。マックス・プール、アントニオ・ティベーリ、マイケル・ストーラー、そしてチームメイトのジュリオ・ペリツァーリといった選手たちも虎視眈々と上位を狙っており、本当に誰が抜け出すか分からない状況です。

パチ・ヴィラ氏が言うように、今回のコースは「少しばかり全てがある」バラエティ豊かな設定です。特にタイムトライアルが総合争いを大きく左右するでしょう。そして、いよいよ山岳が本格化するにつれて、事態はより明確になっていくはずです。パチ氏は最後に、もしジロで優勝したら「カミーノ・デ・サンティアゴを歩いて、MARCAにレポートを送ることを約束するよ」と、なんとも興味深い約束をしてくれました。彼のその約束が現実になるのか、楽しみですね。

今週の注目ステージ

さて、今週後半からはいよいよジロの厳しさが顔を出し始めます。木曜日はポテンツァからナポリまでの210kmという長丁場。アップダウンが連続する丘陵コースで、逃げ集団が栄光を掴む可能性も十分にあります。集団スプリントになるとしても、かなり絞られたメンバーになるでしょう。

金曜日はカステル・ディ・サングロからタリアコッツォへ向かう168km。今大会最初の山頂フィニッシュが待っています。フィニッシュ地点への登りは12.6km、平均勾配5.4%と、超級山岳のような劇的な差はつかないかもしれませんが、総合上位陣の力関係を測る最初の試金石となることは間違いありません。「確かめてやろう」という選手たちの気合いが伝わってきそうです。

土曜日はジュリアノーヴァからカステルライモンドまでの197km。ここもまた、小さなアップダウンが続く典型的なイタリアの丘陵ステージです。逃げが決まりやすいレイアウトですが、有力チームによる奇襲や、総合勢同士の駆け引きが生まれる可能性も秘めています。一日たりとも気が抜けません。

そして日曜日、グッビオからシエーナまでのステージは、まさにジロのハイライトの一つとなるでしょう。トスカーナの丘陵地帯を舞台に、合計30km近くに及ぶ5つのグラベル（未舗装路）区間が登場します。フィニッシュはシエーナの美しいカンポ広場。最後のサンタ・カテリーナの「壁」を登り切った者だけが、あの素晴らしい広場にたどり着けるのです。これはまるで「ストラーデ・ビアンケ」の様相。ここでジロ優勝が決まるわけではありませんが、機材トラブルや落車、あるいは単純な力負けによって、総合優勝の可能性を「失う」ことは十分にあり得ます。

総合争いの行方

現在の総合順位は、マッズ・ピーダスンが首位を守っていますが、Primoz Roglicとの差はわずか17秒。そのすぐ後ろには、マティアス・ヴァチェク、そしてUAEチームエミレーツの3人（ブランドン・マクナルティ、イサーク・デルトロ Toro、フアン・アユソ）が迫っています。このトップ集団に、マックス・プール、アントニオ・ティベーリ、マイケル・ストーラー、そしてジュリオ・ペリツァーリが食らいついている状況です。

UAEチームエミレーツは、アユソだけでなく複数の総合候補を揃える強力な布陣で、ログリッチにとっては最も手強い相手となるでしょう。Lidl-Trekもピーダスンを筆頭に、ヴァチェクが総合上位につけるなど、チームとして存在感を示しています。しかし、パチ・ヴィラ氏が最後に語った言葉が重く響きます。「過去のブエルタでプリモシュと一緒に経験したように、ライバルに『倒すべき選手』として見られること、つまり本命であることは、常に全てをより難しくするんだ」。

これからのジロは、まさにPrimoz Roglicが「倒すべき本命」として、ライバルたちの集中砲火を浴びることになります。彼がそのプレッシャーを跳ね返し、再びマリア・ローザに輝くことができるのか。それとも、UAEチームエミレーツや他のダークホースが、彼の牙城を崩すのか。

いよいよ、ジロ・デ・イタリアの本当の戦いが始まります。ヨーロッパの現場から、引き続き熱いレポートをお届けしますので、どうぞご期待ください！