自転車観光：自転車連盟が危険なポール通報窓口を開設

自転車大国オランダで「危険なポール」が問題に？

驚かれる方もいるかもしれません。自転車先進国として名高いオランダで、今、道路に設置された「ポール（Paaltjes）」が大きな問題としてクローズアップされています。オランダ自転車協会（Fietsersbond）が、その危険なポールを市民から通報してもらうための特設窓口「Paaltjesmelder（ポール通報窓口）」を開設したというニュースが、現地メディアで報じられています。

皆さんは、自転車道や歩道と車道を隔てるために設置されたポールが、思わぬ事故の原因となっていることをご存知でしょうか？ 本来、自動車の進入を防ぎ、歩行者や自転車の安全を確保するためのものですが、皮肉なことに、これらがサイクリストにとっての新たな危険源となっているというのです。オランダ自転車協会によると、毎年数千人ものサイクリストがポールとの衝突により負傷しているという衝撃的な事実が明らかになりました。これはもう、見過ごせない数字です。安全のための設備が、かえって危険を生んでいるというパラドックスに、私は現地でこのニュースに触れた時、思わず唸ってしまいました。

「Paaltjesmelder」が描く安全なサイクリングの未来

オランダ自転車協会がこの「ポール通報窓口」を開設した背景には、明確な目的があります。それは、過剰に設置されたり、危険な場所に設置されたりしているポールを特定し、その撤去や改善を自治体に働きかけることです。協会の戦略的政策顧問、ヤープ・カミンガ氏は「ポールは毎年、被害者に永続的な影響を与えるほど多くの重大な事故を引き起こしています。しかも、それらのポールはしばしば全く必要ないものなのです」と語っています。そして、「この問題に対処する第一歩は、それらのポールがどこにあるかを知ることだ。私たちは今、オランダ中のすべてのサイクリストの協力を得て、それをマッピングしていく」と、その意気込みを語っています。

通報されたポールは、オンライン上の地図に表示され、そのデータは自治体や道路管理者と共有されます。さらに、オランダ自転車協会の地方支部も、通報されたポールの撤去や改善に向けて積極的に活動するとのこと。これは、市民の声を具体的な行動へと繋げる、非常に実効性の高いアプローチであると言えるでしょう。現地で取材をする中で、こうした市民運動が行政を動かす力を持つことを、私は何度も肌で感じてきました。

安全だけでなく「アクセシビリティ」の問題も

このポールの問題は、単に衝突事故の危険性だけに留まりません。記事では、ポールが自転車道の幅を狭めることで、アクセシビリティを阻害していることにも言及しています。例えば、ハンドバイクや三輪自転車といった特殊な自転車を利用する人々にとって、狭い間隔で設置されたポールは、事実上そのルートを「通行不能」にしてしまうのです。

「安全な道路」とは、誰もが安心して利用できる道路のこと。健常者だけでなく、様々な身体的条件を持つ人々が、自由に移動できることが、真の安全と言えるのではないでしょうか。オランダ自転車協会は、ウェブサイト（fietsersbond.nl/paaltjesmelder）やアプリ「Toertje」を通じて、誰でも簡単に危険なポールを通報できるようにしています。これは、市民一人ひとりが自らの手で、より良い自転車環境を築くための参加型プロジェクトなのです。

日本の自転車環境を考える

さて、このオランダのニュースを聞いて、皆さんはどう感じられたでしょうか？ 私がこのニュースに注目したのは、これが決して対岸の火事ではないと感じたからです。日本でも、自転車道や歩道と車道の境界、あるいは駐車場や私有地の出入り口などで、様々な形状のポールや車止めが設置されています。中には、夜間や雨天時に視認性が悪く、ヒヤリとした経験がある方もいるのではないでしょうか。

特に、近年ロードバイクに乗る人が増え、より高速で走るケースも増えています。そうした中で、不意に現れる障害物は、重大な事故に直結しかねません。また、高齢化社会が進む中で、電動アシスト付き三輪自転車の利用も増えています。彼らにとって、狭い通路や急なカーブに設置されたポールは、大きな障壁となり得ます。

オランダの事例は、自転車利用者の安全と利便性を高める上で、インフラ整備がいかに重要か、そして既存のインフラにも改善の余地があることを示唆しています。我々日本のサイクリストも、ただ危険を避けるだけでなく、自らの声を上げて、より安全で快適な自転車環境を求めることが大切ではないでしょうか。皆さんのサイクリングルートにも、危険なポールや車止めはありませんか？ もしそうした場所があれば、ぜひ自治体や関係機関に声を届けてみてください。このオランダの取り組みが、日本における自転車インフラの改善に向けた議論のきっかけとなることを、私は心から願っています。

写真：セゴレーヌ・トマ Koomen