コルティナ、ホームで『復活』：「悪くても悪くない、勝っても凄くない」

日本のサイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは。山田 健一です。

グランツールを中心に、ヨーロッパのレースを追い続けていますが、時として地方で開催されるレースの中に、心揺さぶられる物語が隠されているものです。今回注目したいのは、スペイン、アストゥリアス州で行われたブエルタ・ア・アストゥリアスでの一幕。地元出身のイバン・ガルシア Cortina（モビスター チーム）が見せた、まさに「ホーム」での勝利です。

故郷の道が導いた、特別な勝利

イバン・ガルシア Cortinaがブエルタ・ア・アストゥリアス第2ステージで挙げた勝利は、単なる一勝以上の重みがありました。フィニッシュ地点となったポーラ・デ・レナは、彼が幼い頃からペダルを回し、プロの道を志した、まさにホームグラウンド。「いつも練習していた道ばかりだった。地元で勝つのは特別なことなんだ」と、彼は興奮冷めやらぬ様子で語ってくれました。

この勝利がさらに特別だったのは、彼にとってこのレースが「急遽決まった」参戦だったことです。春のクラシックシーズン、特に過酷なパリ〜ルーベを終えてわずか4日後のこと。チーム ヴィスマ・リースアバイクやUAEチームエミレーツ・XRGなど、強豪ひしめく世界を転戦してきた彼にとって、短い休息で地元レースに臨むのは決して楽な選択ではなかったはずです。しかし、チームに欠場者が相次いだ事情もあり、「ゼッケンをつけたら、全力を尽くすしかない」と、彼はプロとしての責任感を胸にスタートラインに立ったのです。

計画外の逃げ、そして下りの攻防

レース展開も、彼の当初の計画とは異なりました。集団から抜け出した逃げに乗ったのは、むしろメイン集団に捕まらないようにという戦術的な意図が強かったと言います。しかし、逃げ集団とのタイム差が開くにつれて、「もしかしたら、行けるかもしれない」と、彼の心に変化が生まれた。「そこにいると、もうレースに入り込んじゃうんだ。勝てるかもしれないと思って、スイッチが入った」と、その瞬間の心境を明かしてくれました。

もちろん、勝利への道は平坦ではありませんでした。特に下りでは苦戦を強いられたようです。「上りでは一番強かったし、ほとんどの峠を先頭でクリアした。でも、下りはきつかったね。自転車が3回も変な挙動をしたんだ。自信を失ったわけじゃないけど、自分の限界が違うと感じた」と、正直な胸の内を語っています。UAEチームエミレーツ・XRGのJohansenに下りで追いつかれ、引き離されるたびに、必死に踏み直して追いつくという、まさに泥臭いバトルだったと振り返ります。

「悪い時も良い時も、自分は変わらない」プロの哲学

近年、イバン・ガルシア Cortinaのキャリアは浮き沈みがありました。期待されながらも、なかなか結果に繋がらない時期もあったことでしょう。そんな経験を経て、彼は一つの哲学に行き着いたようです。「調子が悪い時も、自分はそんなに悪くないし、勝ったからといって、そんなに凄いわけでもない」。なるほど、これは深い言葉ですね。「うまくいく時もあれば、そうでない時もある。それはケアを怠ったり、練習が悪かったりするわけじゃない。常に100%でやっている。でも、いつも報われるわけじゃないんだ」と、プロの世界の厳しさを語ってくれました。

だからこそ、地元で掴んだこの勝利は、彼にとってかけがえのないものになったのです。「地元で預言者になるのは難しいことだけど、それを達成できたのは最高の気分だ」。ユース時代にも同じポーラ・デ・レナで勝利したことがあるというトリビア的な話も聞けました。「今日（金曜日）も同じだった。予想していない時に、勝利はやってくるんだ」。確かに、努力は必ずしも直線的に報われるわけではない。でも、積み重ねた努力は、いつか、思わぬ形で実を結ぶことがある。彼の言葉を聞いて、改めてそう感じました。

未来へ続く道、そして変わらぬプロ意識

しかし、イバン・ガルシア Cortinaは感傷に浸るタイプではありません。この勝利を喜びつつも、「もちろん、こういう形で勝てるともっと楽しめるし、努力は最終的に報われる。でも、これからも良い仕事を続けなきゃいけないし、来るべきものは来るだろう」と、冷静に先を見据えています。

今後の目標は、トロ・ブロ・レオンを含むいくつかのフランスのクラシックレース。再び戦場のジャージに袖を通し、持ち前のファイティングスピリットで戦うことでしょう。「出るレースは全て、ベストを尽くそうとしている。昨日（木曜日）はフィート峠で力尽きたけど、今日は勝てた。これが自転車だよ。常に100%なんだ」。そう、これがプロの流儀。昨日の結果に一喜一憂せず、常に次のレースに全力を注ぐ。彼の言葉からは、そんな強い意志が伝わってきました。

地元アストゥリアスの道で、イバン・ガルシア Cortinaは自身のルーツと再び繋がり、最高の形で復活を遂げました。この勝利が、彼にとって今後のさらなる活躍への大きな弾みとなることは間違いないでしょう。次に彼がどんな驚きを見せてくれるのか、今から楽しみでなりません。