ロットが苦境から抜け出しつつある：「逆境は耐えるしかなかった」

ロット 、苦境からの脱却へ。ジロ不参加の裏にあるチームの現実と反攻の狼煙

山田 健一

ジロ・デ・イタリアが開幕し、イタリア各地で熱狂的なレースが繰り広げられている。しかし、今年の「マリア・ローザ」を巡る戦いに、ベルギーの古豪 ロット の姿はない。昨シーズン、プロチーム（旧プロコンチネンタル）カテゴリーで最上位となり、ワールドツアーレースへの出場権を得たにも関わらず、彼らはこのイタリアでの大一番を回避した。その裏には、チームが直面した想像以上の苦境と、そこからの脱却に向けた静かなる戦いがある。今回は、チームの現状について、スポーツマネージャーのKurt Van de Wouwerの言葉を紐解きながら、私の視点から考察していきたい。

ジロ不参加の理由と「贅沢な状況」

昨年のプロチームランキング1位という成績は、 ロット に「贅沢な状況」をもたらした。ワールドツアーレースへのスタート権は得たものの、ワールドチームと異なり出場義務はない。つまり、チームの戦力や目標に合わせて、自由にレースプログラムを選択できる立場に立ったのである。Kurt Van de Wouwerは、ジロ・デ・イタリアへの不参加について、「我々のチームには、イタリアのグランツールで総合や区間優勝を狙えるような、適したエースがいなかった」と明言している。これは非常に現実的な判断だ。UCIポイントを効率的に稼ぐためには、エース級の選手が確実に結果を出せるレースを選ぶことが重要になる。総合エース不在の状況で、ワールドチームがひしめくジロに無理に参加するよりも、フランスやベルギーといった、より慣れ親しんだ地で、区間優勝やカテゴリーの高いワンデーレース、ステージレースで確実にポイントを積み上げる戦略を選んだということだろう。

誤算の春、怪我と移籍の影響

しかし、その「贅沢な状況」は、思いがけない形で誤算を生んだ。今年の春、 ロット は開幕から極めて厳しい戦いを強いられたのだ。今季、チームが記録した勝利はわずか2勝（5月13日現在）。これはプロチームとしては非常に少ない数字であり、UCIポイントランキングでも現在24位と低迷している。3年間の累積ポイントで争われるワールドチーム昇降格のボーダーラインからはまだ距離があるものの、このままでは安心できない状況だ。

Kurt Van de Wouwerは、この苦戦の最大の要因として、相次ぐ選手の怪我と昨オフの主力選手の移籍を挙げている。 ラルス・クラップス や リアム・スロック は膝の手術を受け、 イェノ・ベルクムース は病気と落車に見舞われた。期待のエースである アルノー・ドゥリー Lie も万全ではなかったという。「手術や落車、病気といった不運は、ただ受け入れるしかない」と彼は語る。これは、チームのコントロールを超えた事態であり、いかに戦術を練っても、選手が走れなければどうにもならないという、ロードレースの厳しさを物語っている。

さらに、昨オフには フロリアン・フェルミールス、マキシム・ファンヒルス Gils、アンドレアス・クロン、ヴィクトル・カンペナールツ といった、チームの核となる選手たちが移籍したことも痛手だった。「彼らを失った後、奇跡を期待できるほど甘くはないことは分かっていた」とKurt Van de Wouwerは認める。残った選手たちは確かに「戦争に行けるだけの力」を持っているが、それは「不運が重ならなければ」という前提条件付きだったのだ。彼の言葉からは、戦力ダウンに加えて、想定以上の怪我人続出という悪循環に陥ってしまったことへの無念さが滲み出ているように感じられる。

反攻の狼煙、夏へ向かうチーム

だが、ようやく状況は好転の兆しを見せ始めている。先週のトルコ一周で エリア・ヴィヴィアーニ が今季チーム2勝目を挙げたことは、まさに「救い」だったとKurt Van de Wouwerは語る。年齢を考えれば引退も選択肢にあった エリア・ヴィヴィアーニ が、新たな環境で勝利を掴んだことは、チーム全体の士気を高めるだろう。「もっと勝ちたいという飢えは大きい」という彼の言葉は、チームの現状に対する危機感と、ここから巻き返したいという強い意志の表れだ。

そして、怪我で離脱していた選手たちが続々と復帰する予定だ。 ラルス・クラップス と リアム・スロック は6月末にはレースに戻れる見込み。 アルノー・ドゥリー Lie はケルンで、 イェノ・ベルクムース はダンケルク4日間レースで復帰を果たす。Kurt Van de Wouwerは「チームは再びフル回転を始めるだろうという印象だ」と手応えを語っている。

ジロ期間中、そして6月にかけて、 ロット はUCIポイント獲得のチャンスを狙えるレースプログラムを組んでいる。復帰した イェノ・ベルクムース は、本来のレベルに戻れば貴重なポイントゲッターとなりうる。 エリア・ヴィヴィアーニ、ミラン・メンテン といったスプリンター、そして チーム フランダース・バロワーズ Belgium Tourでの アレック・セガールト といった選手たちにも期待がかかる。彼らがどれだけポイントを積み上げられるかが、今後のチームの浮沈を左右するだろう。

苦難の春を乗り越え、本来の姿を取り戻しつつある ロット 。UCIポイント争いは年々熾烈を極めており、プロチームといえどもワールドツアー昇降格のプレッシャーからは無縁ではない。彼らは夏以降のレースで巻き返しを図り、来シーズン以降の安泰を勝ち取れるのか。ベルギーの古豪の動向から、今後も目が離せない。