米国輸入関税が自転車産業に打撃、影響は様々

上海で見えた自転車産業のリアル

先週、中国の上海で大規模な自転車見本市「China International Bicycle Fair」、通称China Cycleが開催されました。世界中から自転車産業の関係者が集まるこの場で、私が耳にしたのは、アメリカの輸入関税が業界に与える影響についてでした。

GarminやWahoo、そしてDecathlon傘下のVan Ryselといった名だたるブランドもブースを構える一方で、会場の主役は言うまでもなく膨大な数の中国メーカーです。彼らと話をする中で、アメリカが課す輸入関税がビジネスに影響を与えていることは間違いなく、皆がその話題に触れていました。しかし、彼らの口調には、どこか達観したような、あるいは一時的なものと捉えているようなニュアンスが感じられたのです。

中国メーカーの「一時的」な楽観論？

多くの中国メーカーの代表者は、関税による影響は認めるものの、それを「一時的な問題」と見なしているようでした。「いずれ収まるか、緩和されるだろう」と。これは、ドナルド・トランプ氏の政策が予測不能で、常に変動するものであるという彼らの経験に基づいた見方なのでしょう。「今は市場がこの状況を受け入れるしかないが、いずれ潮目は変わる」という声も聞かれました。

一方で、アメリカ市場に特化してビジネスを展開している一部のメーカーからは、より深刻な懸念の声も上がっていました。彼らは、関税の影響でアメリカへの輸出がほぼゼロになる可能性さえ恐れているのです。対照的に、ヨーロッパやアジア市場への依存度が高いメーカーは、そこまで悲観的ではなく、むしろこれらの市場との関係をさらに強化しようとしていました。これは非常に分かりやすい、そしてある意味で合理的なリスク分散の動きであると言えます。

動き出した米中間の緩和策

この「一時的」という見方が、どうやら現実味を帯びてきているようです。一時は最大145%にまで跳ね上がったアメリカの中国製品に対する関税ですが、最近になって米中両国間で合意が結ばれ、90日間限定ではありますが、関税が引き下げられることになりました。アメリカ側は30%に、そして報復措置として中国側が課していた関税も10%に下がるとのこと。

もちろん、これはあくまで一時的な措置であり、90日後にどうなるかは全く予断を許しません。しかし、この緩和措置は、中国メーカーが抱いていた「いずれ緩和されるだろう」という期待を少なからず裏付けるものです。複雑に絡み合う大国の経済戦略の中で、自転車のような一見ニッチに見える産業も翻弄されている。そう考えると、「なるほど！」と思わず膝を打ちたくなりますね。

レース界への影響を考える

皆さんが応援している選手たち、例えばマッズ・ピーダスンやプリモシュ・ログリッチ、あるいはマチュー・ファンデルプールといったトップ選手たちが駆るバイクやコンポーネントも、多くはこの世界のサプライチェーンを通じて我々の手元に届いています。チーム ヴィスマ・リースアバイクやUAEチームエミレーツのようなビッグチームであっても、機材調達のコストや安定性は無視できない要素です。

今回の関税問題が、直接的に彼らのパフォーマンスに影響を与えるわけではないでしょう。しかし、自転車や部品の価格が上昇すれば、それはチームの機材コスト増につながり、ひいてはチームの運営予算や、我々ファンが手にする機材の価格にも影響してきます。バスティアン・トロンションやピエール・ゴーテラ、ヴァランタン・マドゥアスといった若手選手たち、あるいはジョシュア・ターリングやジェイ・ヴァイン、そしてジロ・デ・イタリアで活躍したオールイス・アウラールのような選手たちにとっても、機材は生命線ですから、この経済的な動向は決して無関係ではないのです。

今後の関税の行方、そしてそれが世界の自転車産業にどのような変化をもたらすのか、そしてその変化が我々ファンの目に触れる「レース」という形でどう現れてくるのか。これは、グランツールはもちろんのこと、サイクルロードレース全体をより深く理解する上で、非常に重要な視点であると私は考えています。引き続き、この動向には注目していきたいと思います。皆さんも、ぜひ一緒に考えてみませんか？