UAEチームエミレーツ・XRG、最終週の戦略はいかに？

ジロ・デ・イタリア最終盤：UAEチームエミレーツ・XRGの光と影──マリア・ローザを巡る二人のエースの葛藤

今年のジロ・デ・イタリアは、まさにUAEチームエミレーツ・XRGの独壇場と言っても過言ではありません。マリア・ローザをしっかりと抱え込んでいるのは、弱冠21歳の新星、イサーク・デルトロ。そして、総合3位には本来のエースであるフアン・アユソが虎視眈々と上位を狙っています。一見すると、これほど盤石な体制は他にないように思えますが、グランツールを追い続けてきた私、山田健一の目には、この「ピンクの嵐」の裏に、最終週を前にしたチーム内の複雑なヒエラルキー、そして二人のエースの間に生じるであろう静かなる葛藤が隠されているように映るのです。これは単なる「贅沢な悩み」では片付けられない、深淵なドラマの幕開けかもしれません。

盤石の体制、しかし潜む影：UAEチームエミレーツ・XRGのジロ最終週

ジロ・デ・イタリアの最終週を前に、UAEチームエミレーツ・XRGはまさに完璧な布陣で臨んでいます。マリア・ローザをイサーク・デルトロが着用し、フアン・アユソも総合上位に位置。さらに、ブランドン・マクナルティ、アダム・イェーツ、ラファウ・マイカ、イゴール・アリエタといった強力なアシスト陣が控えており、その層の厚さは他チームを圧倒しています。チームマネージャーのフェルナンデス・マッチンも、「我々にとって、これは恵まれた状況だ。ライバルより前に二人の選手がいる方が良い」と、その優位性を隠しません。

実際、デルトロは連日、驚異的な走りを見せています。例えば、プリモシュ・ログリッチがさらに1分30秒ものタイムを失う中で、デルトロは常にアタックの背後にぴたりとつき、余裕すら感じさせる走りを披露。ボーナスタイム獲得スプリントにも積極的に加わり、リチャル・カラパスがカステルノーヴォ・ネ・モンティで勝利した際も、チームのために献身的に動いています。日曜日のステージでは、残り50kmで7人が横一列で集団を牽引し、残り20kmでも5人が残るという圧倒的なチーム力を見せつけました。リドル・トレックのカルロス・ベローナがステージ6勝目を挙げ、チームが「夢のようなジロ」と語る中で、UAEチームエミレーツ・XRGはさらにその上を行く支配力を見せつけているのです。しかし、この完璧さの裏には、最終週に爆発しかねない火種がくすぶっているように感じます。

エースの座は誰に？：フアン・アユソとイサーク・デルトロの静かなる戦い

ジロの開幕前、誰もがUAEチームエミレーツ・XRGの「公式リーダー」はフアン・アユソであると認識していました。しかし、蓋を開けてみれば、マリア・ローザを着用しているのはイサーク・デルトロ。アユソはデルトロから1分26秒遅れの総合3位に位置しており、チーム内のヒエラルキーに静かな変化が起きていることは明白です。先日の休養日には、フェルナンデス・マッチン監督が「状況は変わっていない。チームのリーダーはアユソだ」と語っていましたが、果たしてバッサーノ・デル・グラッパでの休養日を終えた今、その言葉にどれほどの重みがあるのでしょうか。

デルトロはマリア・ローザを最大限に尊重する姿勢を見せつつも、「チームとして総合優勝を目指す」と語り、その言葉の裏には確かな自信と、自らの「マリア・ローザ保持」への強い意志が感じられます。興味深いことに、デルトロはアユソのために献身的に動く場面も少なくありません。カステルノーヴォ・ネ・モンティではリチャル・カラパスに追いつく力がありながらもアユソと集団に留まり、レッドブル・キロメトロではアユソのボーナスタイム獲得のために自ら発射台となる走りを見せました。さらには、リチャル・カラパスやエガン・ベルナルらのアタックを自ら追走するなど、まるで「スーパーアシスト」のような役割をこなしています。アユソは直近の印象ではやや精彩を欠くように見えますが、3週間のグランツールを戦い抜く経験と、特に非常に高い山岳での適性という点で、依然として優位性を持っていると見られています。この二人の間の静かなる駆け引きが、最終週の山岳でどのように昇華されるのか、注目せずにはいられません。

チームとファンを魅了する新星：イサーク・デルトロの輝き

イサーク・デルトロが単なる「ラッキーなマリア・ローザ保持者」ではないことは、チーム内、そしてSNSの反響を見ても明らかです。昨年のジロ覇者であるタデイ・ポガチャルが、シエナでデルトロとコーヒーを片手に写る写真をSNSに投稿したことは、まるで「新星の誕生」を祝福するかのようでした。UAEチームエミレーツ・XRGのマネージャー陣も、デルトロの活躍を称える動画を積極的に公開・再投稿しており、チーム全体がこの21歳のメキシコ人ライダーに傾倒しているかのような印象を受けます。

デルトロ自身も「信じられない。夢の中にいるようだ。自分が毎日こんな風に戦っているなんて、まだ実感が湧かない」と語り、その言葉からは純粋な喜びと、並々ならぬ覚悟が伝わってきます。「このチームとなら、どんなことでも可能だと信じている。国中の期待を一身に背負っているんだ。信じられないよ。僕は新参者だけど、アイドルだった選手たちと戦っているんだから」。彼のこの言葉は、多くのファンの心を掴んで離しません。

チームの総監督であるマウロ・ジャネッティが数日前、電話でデルトロに「何も変えるな。君はいるべき場所にいるし、これからも長くそこに居続けるだろう」と語ったという裏話は、デルトロへの「承認」であり、彼がチームの未来を担う存在であることを示唆しているようにも聞こえます。昨年のツール・ド・フランスでフアン・アユソがタデイ・ポガチャルへの献身をあまり見せなかったという背景も踏まえれば、デルトロのチームへの貢献意欲と、ミスのない走りは、彼を「選ばれし者」へと押し上げているのかもしれません。

運命の最終週へ：マリア・ローザは誰の手に？

ジロ・デ・イタリアの最終週は、正真正銘の山岳決戦となります。UAEチームエミレーツ・XRGの二人のエース、イサーク・デルトロとフアン・アユソのどちらが、ローマでマリア・ローザを着用するのか。彼らの力関係、チームの戦術、そして何よりも選手個々のコンディションと精神力が、このドラマの結末を左右するでしょう。

果たして、指揮官フェルナンデス・マッチンは誰に最終的なGOサインを出すのか？ それとも、レースが、その二人のうちどちらかを選ぶことになるのでしょうか？ 歴史に残るであろうこの「ダブルエース問題」の行方から、最後まで目が離せません。あなたはどちらの選手がマリア・ローザを掴むと思いますか？