ポガチャルがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで3勝目、独走V！チッコーネが2位

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2025：タデイ・ポガチャルの圧勝劇を機材目線で読み解く

プロチームメカニックの松田 翔太です。クラシックシーズンの掉尾を飾る「最古参」のレース、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。今年もまた、ドラマチックな展開を見せてくれました。特に、タデイ・ポガチャルの圧倒的な強さと、それに対峙したジュリオ・チッコーネの素晴らしい走りには、メカニックとして唸らされる場面が多々ありました。この過酷なレースで、選手と機材はどのようにその限界に挑んだのか、私の視点からお話ししたいと思います。

「ラ・ドワイエンヌ」、その過酷さと機材への挑戦

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ、通称「ラ・ドワイエンヌ（最古参）」。その名の通り、長い歴史を持つこのレースは、獲得標高が4000mにも達する起伏に富んだコースが特徴です。250kmを超える距離に散りばめられた急勾配の「コート（丘）」の連続は、選手だけでなく、機材にとっても極めて過酷な試練となります。

メカニックにとって、リエージュは特に神経を使うレースの一つです。度重なる急勾配に対応するための適切なギア比の選択はもちろん、石畳こそありませんが、荒れた路面や下りの高速コーナーでの安定性を確保するため、タイヤの空気圧や種類、フレームの剛性や振動吸収性など、考慮すべき要素は多岐にわたります。選手が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、バイクの微細な調整に全力を尽くす。まさに匠の技が求められる舞台なのです。

レース序盤、12人の逃げ集団が形成されました。最大で6分近くのリードを築きましたが、集団をコントロールするのはAGインシュランス・スーダル チームやUAEチームエミレーツといった有力チームです。彼らが序盤からペースを上げたのは、逃げ集団に大きなリードを与えすぎず、かつ、エースをフレッシュな状態で終盤の勝負所へ送り込むため。この集団牽引一つとっても、チームとして、そしてメカニックとして、いかにエネルギーロスを最小限に抑えつつ、効率的に走らせるかという計算が働いています。「なるほど！」と膝を打ちたくなりますね。

勝負を分けたラ・レドゥート、機材が唸る瞬間

レースが本格的に動き出したのは、やはり終盤の「コート」の連続、特に象徴的なラ・レドゥートでした。平均勾配8.9%、最大勾配20%というこの激坂は、選手にとっては脚力の限界、そして機材にとってはフレームの剛性、ホイールの反応性、そしてコンポーネントの信頼性が試される場所です。

ここで満を持してアタックしたのが、タデイ・ポガチャル（UAEチームエミレーツ・XRG）です。彼の爆発的な加速は、まるでバイクが彼のパワーをそのまま推進力に変換しているかのようでした。フレームが一切のパワーを逃がさず、ホイールが瞬時に回転を上げる。この一瞬の挙動に、メカニックはゾクッとさせられます。「そうだったのか！」と思うのは、彼のバイクがこの特定のアタックポイントに向けて、いかに最適化されていたか、という点です。おそらく、普段のレースとは異なる、このリエージュのコース特性に合わせた特別なセッティングが施されていたはずです。

タデイ・ポガチャルに食らいつこうとしたのは、ジュリオ・チッコーネ（Lidl-Trek）、Alaphilippe、Pidcockらです。彼らもまた、それぞれのチームが準備した最高の機材で追走を試みます。特にジュリオ・チッコーネのバイクは、彼のようなクライマーのパワーをしっかりと受け止めつつ、リエージュの荒れた路面にも対応できるバランスが求められます。フレームの素材や形状、タイヤの選択など、その選手の特性とコースに合わせて細かく調整されているはずです。

独走を支えた機材の信頼性、チッコーネの意地のスプリント

ラ・レドゥートで単独先頭に立ったタデイ・ポガチャルは、そのまま独走態勢に入りました。残り26km地点で既に30秒以上のリード。この独走を可能にするためには、選手の圧倒的な力はもちろんですが、機材の信頼性が不可欠です。高速で下りを攻め、平坦区間を巡航し、さらに残りの上りをクリアする。フレームの空力性能、ホイールの回転性能、そして何より、一切のトラブルなく機能し続けるコンポーネント。全てが完璧でなければ、このリードを維持することはできません。「確かに！」と納得するのは、彼のバイクが最後まで彼の走りを支え続けたという事実です。

一方、2番手争いでは、ジュリオ・チッコーネがHealyと共に追走グループから抜け出しました。ジュリオ・チッコーネは純粋なクライマーというイメージが強いかもしれませんが、このリエージュの終盤で見せた粘り強さと、最後の上りをクリアしてからのスプリントは、彼の総合力の高さを証明しました。そして、それを支えたのが、彼のクライミングパワーを無駄なく伝達し、かつスプリントにも対応できる剛性を備えたバイクです。タイヤのグリップ性能も、最後の力を振り絞るスプリントでは非常に重要になってきます。Healyを抑えての2位獲得は、選手自身の力と、それを最大限に引き出した機材、そしてチームのサポートの賜物でしょう。

また、イタリア勢としては、Velascoが4位、Bagioliが6位と、3人の選手がトップ6に入る健闘を見せました。厳しいレースで粘り強く走り抜くためには、コンディションだけでなく、機材との相性も重要です。彼らが使用したバイクが、このリエージュのコースにいかにフィットしていたか、想像が膨らみます。

勝利の裏にある「見えない力」

タデイ・ポガチャルのリエージュ3勝目という偉業は、彼の突出した才能によるものですが、その裏にはチームUAEチームエミレーツの周到な準備と、メカニックチームの「見えない力」があります。レース前のバイクチェック、タイヤの選択、ギア比の決定、そしてレース中の機材トラブルへの迅速な対応。これら全てが、選手が安心して全力を出し切るための基盤となります。「へぇ～」と思いませんか？画面には映らないところで、何十人ものスタッフが選手の勝利のために働いているのです。

今回、過去2年間リエージュを連覇していたレムコ・エヴェネプール（AGインシュランス・スーダル チーム）が苦戦したのも印象的でした。絶対的なエースであっても、その日のコンディションや、機材のわずかな不調、あるいはコースとの相性など、様々な要因が絡み合って結果は変わります。だからこそ、サイクルロードレースは面白い。

次なる舞台へ、機材の進化は止まらない

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでクラシックシーズンは一つの区切りを迎えますが、すぐに次の大きな目標、グランツールへと戦いの舞台は移ります。このリエージュで得られたデータや経験は、確実に今後の機材開発やチーム戦略に活かされていくでしょう。

今回、選手のパフォーマンスを最大限に引き出したバイクたちが、グランツールという全く異なる要求が求められる舞台で、どのように進化し、どんな走りを見せてくれるのか。メカニックとして、非常に楽しみです。読者の皆さんも、ぜひ次のレースでは、選手の走りだけでなく、彼らが駆るバイクにも注目してみてください。きっと新たな発見があるはずです。次回の記事もお楽しみに！