ポガチャル、クラシック連戦の行方は？

タデイ・ポガチャル、クラシック圧勝劇のその先へ ～リエージュで見せた絶対王者の余裕と次なる目標～

日曜日に開催された「ラ・ドワイエンヌ」、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。タデイ・ポガチャルが、自身9つ目となるモニュメントタイトルを、圧倒的な独走で勝ち獲ったレースです。その強さたるや、ゴール後のプロトコルテントで、EFエデュケーション・イージーポストのベン・ヒーリーが、ジュリオ・チッコーネに次ぐ3位に入った喜びもそこそこに、ポガチャルに思わずこう尋ねたほどでした。「いつ引退するんだ？」

26歳にして、もう9つ目のモニュメント勝利。これは歴史的な偉業です。タデイ・ポガチャルというサイクリストが、ライバルたちにとってどれほど絶望的な存在であるか、このベン・ヒーリーの問いかけが何よりも雄弁に物語っていました。ポガチャル自身は、笑いながら「2030年まで契約があるから、たぶんその年かな」と返していましたが、UAEのこの貪欲な若き王者は、まだしばらく頂点に君臨し続ける。モニュメント勝利を夢見るすべての選手が、そう確信した瞬間だったのではないでしょうか。

「いつ引退するんだ？」ライバルが漏らした本音

リエージュのプロトコルテント、そこには勝者を称える拍手と、そして何よりもタデイ・ポガチャルへの畏敬の念が満ちていました。EFエデュケーション・イージーポストのベン・ヒーリーが、喜びの中に少しの諦めを滲ませながら彼に投げかけた「いつ引退するんだ？」という言葉。これは単なるジョークではなく、ポガチャルの圧倒的な強さに対する、本心からの問いかけだったように私には聞こえました。

考えてみてください。26歳でモニュメント9勝。これはレジェンドたちのキャリア終盤に匹敵する数字です。しかも、彼はまだ伸びしろを見せ続けている。ストラーデ・ビアンケでの圧勝に始まり、ツール・デ・フランドル、パリ〜ルーベといった石畳レースへの挑戦、そしてアルデンヌクラシックでの連戦。特にパリ〜ルーベでは、初挑戦ながらもそのポテンシャルを見せつけました。ライバルたちが彼を捉えようと戦略を練っても、結局は彼自身の力でそれを凌駕されてしまう。そんな状況が続けば、「一体いつまでこの強さが続くんだ？」と、思わず弱音を漏らしたくなる気持ちも理解できます。ジュリオ・チッコーネやトム・ピドコックといったトップ選手たちでさえ、リエージュではポガチャルのアタックに反応できなかったのですから。

計算外のアタック？リエージュで見せた「直感」と「余裕」

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュの数日前、アムステル・ゴールドレースでは終盤捕まって2位、フレッシュ・ワロンヌでは勝利したものの、どこか「完璧ではない」という印象もありました。ストラーデ・ビアンケから7週間、クラシック戦線を走り続けてきた疲労が、タデイ・ポガチャルの体にも蓄積しているのではないか？レムコ・エヴェネプールのようなライバルたちは、そこに一縷の望みを託していたはずです。

しかし、リエージュでは違いました。ラ・ルドゥートの丘、残り34km地点。UAEのスポーツディレクターであるJoxean Fernandez Matxin氏によれば、「あの場所でのアタックは、本当はプランではなかった」と言います。本来は、レムコ・エヴェネプールがアタックすると予想されていたラ・ルドゥートでは落ち着いて対応し、その後のラ・フォルジュ（残り25km）かラ・ロッシュ・オー・フォーコン（残り15km）で仕掛けるつもりだった、と。

しかし、ポガチャルはラ・ルドゥートで動きました。なぜか？彼自身は「多くのチームにアシストがいなくなっていたのを見た」「少し自分をテストしたかった」と語っています。しかし、Matxin氏は「タデイはライバルたちの弱みを感じ、直感が働いたのだろう」と推測しています。私は両方の側面があったと感じています。チームメイトであるSivakovやMcNultyがまだ近くにいたこと、そしてライバルたちが彼の動きを牽制し合い、決定的なアタックに反応できない「弱み」を感じ取ったこと。そして何よりも、あのラ・ルドゥートの勾配を、自身のコンディションが万全であれば独走に持ち込める「テスト」の場として使えた、という余裕。あの冷静な判断と実行力が、タデイ・ポガチャルを他の選手から一段上の存在にしているのです。

UAEのマネージャー、Mauro Gianetti氏が「ライバルたちは、追えないのではなく、追おうとしないように見えた」と評したのも印象的でした。これは、ポガチャルの強さを前にして、無理に追うよりも自分のレースをすることを選択せざるを得ない、今のプロトンの状況を的確に表していると言えるでしょう。ジュリオ・チッコーネが「彼についていく脚はなかったので、自分の力をうまくマネジメントしようとした」と語ったように、多くの選手は早々にポガチャルを視界から外し、残りの順位争いに切り替えていたのです。まさに、別次元の走りでした。

クラシック連戦を可能にした秘訣と、見据える「石畳」

これほど過酷なクラシック戦線を、最高のコンディションで走り抜けるには、並大抵ではない調整が必要です。UAEのスポーツディレクターは、その秘訣について「レース日数が少なく（わずか14日）、移動も少ない。それによって完璧に回復できる」と説明しています。グランツールのように毎日緊張を強いられるのとは違い、アムステル・ゴールドレースからフレッシュ・ワロンヌまで3日、リエージュまで4日と、間に十分な休息を挟むことができたのが大きかったようです。

そして、もう一つ注目すべきは、アルデンヌクラシックの前にツール・デ・フランドルやパリ〜ルーベといった石畳レースを走ったことです。これは選手にとって非常にタフな選択であり、特にリエージュのような上り基調のレースとは求められる筋肉や技術が異なります。しかし、ポガチャルはそれをやり遂げ、さらにリエージュで圧勝しました。Matxin氏は「彼にとっては、どのレースも難しくないように見える」と舌を巻いています。

ポガチャル自身は、将来のジロ・デ・イタリア出場を示唆しつつも、今回のクラシックキャンペーンが「非常に素晴らしい経験だった」「パリ〜ルーベでこんなレースができるとは想像もしていなかった」と語っています。特にパリ〜ルーベでの走りが、彼の中で何かを変えたのかもしれません。いつか彼が「北の地獄」で本気で勝利を目指す日が来るのか？そう想像するだけで、ワクワクしてきませんか。

休息を経て、ターゲットはツール・ド・フランス

圧倒的なクラシックシーズンを終えたタデイ・ポガチャルは、これからしばらく休息に入るとのこと。「少し自転車のことを忘れたい」と語る彼の言葉には、張り詰めたクラシック戦線から解放された安堵感が滲んでいました。その後は、スペインのシエラネバダでの高地合宿を経て、クリテリウム・デュ・ドーフィネ、そして最大の目標であるツール・ド・フランスへと向かいます。

ツール・ド・フランス。そこで彼を待ち受ける最大のライバルは、チーム ヴィスマ・リースアバイクのヨナス・ヴィンゲゴーです。ヴィンゲゴーはクラシックには出場していませんが、この春、タデイ・ポガチャルが世界にまき散らした虹色のジャージの輝きを、きっと注視していたはずです。

クラシックでの圧倒的な強さを、タデイ・ポガチャルはツール・ド・フランスにどう繋げるのか。休息を経て、さらにパワーアップしてくるのか。それとも、ヴィンゲゴーがクラシックとは全く異なるグランツールの舞台で、ポガチャルを封じ込めるのか。いよいよグランツールシーズンへの期待が最高潮に高まってきました。夏のフランスで繰り広げられるであろう、二人の王者の激突が今から待ちきれませんね。