ジロ2025 第12ステージ ヴィアダーナへ：スプリンターに新たな好機か？

ジロ・デ・イタリア2025：第12ステージ ヴィアダーナへの道のり ― スプリンターに新たなチャンス到来か？

日本の皆さん、こんにちは。山田健一です。グランツール担当として、今回もジロ・デ・イタリアの最深部へと皆さんをご案内しましょう。第108回大会もいよいよ中盤戦に差し掛かり、総合争いはもちろんのこと、各ステージでの熾烈な攻防が続いています。特にスプリンターたちにとっては、この第12ステージがまさに「待ちに待った」チャンスとなるでしょう。しかし、コースレイアウトを仔細に読み解くと、単なる平坦ステージでは終わらない、思わぬ落とし穴が潜んでいることが見えてきます。最終局面のトリッキーなカーブは、勝利への道を切り拓くか、それとも混乱の渦に巻き込むか。選手たちの表情から、私はすでにその緊張感を感じ取っています。

スプリンター待望の平坦ステージ、その舞台裏

今大会、純粋なスプリントチャンスが極めて少ない中で、第12ステージはスプリンターたちにとって喉から手が出るほど欲しかった一日です。スタート地点は、自動車メーカーのフェラーリや、偉大なテノール歌手ルチアーノ・パヴァロッティの故郷としても知られるモデナ。エミリア＝ロマーニャ州に位置するこの街は、ジロ・デ・イタリアの拠点としても頻繁に登場し、イタリアの現代文化史にその名を刻んでいます。美食の街としても有名で、私も過去の取材で何度か立ち寄ったことがありますが、本当に素晴らしいディナーを楽しめますよ。

しかし、モデナを出発してすぐ、コースはバイソ、トリニタ、ロッセーナといった3級山岳を含む、短いながらも起伏に富んだ区間へと突入します。これは逃げ集団にとっては、序盤にポイントを稼ぐ絶好の機会となるでしょう。しかし、ご安心ください。95km地点を過ぎると、コースは文字通り「ビリヤード台のように」平坦になります。そして、フィニッシュ地点のヴィアダーナは、ジロ史上初めて登場する街です。この新顔の街が、果たしてどんなドラマを生むのか、想像するだけで胸が高鳴りますね。

最も注目すべきは、ゴール手前28km地点で一度フィニッシュラインを通過した後、再び戻ってくるという地元周回コースです。そして、その終盤、勝負を分けるであろう「罠」が仕掛けられています。フィニッシュまで約350mの地点に、鋭角なカーブ、しかもロータリーを介してのカーブが待ち構えているのです。これはスプリンターチームにとって、このカーブをいかに攻略するかが勝敗を分ける最大の戦術ポイントとなるでしょう。このカーブを過ぎてしまえば、もう隊列を立て直す時間はありません。いわば、このカーブの手前で「もう一つのスプリント」が始まる、そう考えて間違いありません。

勝利への飢え、加速するスプリンターたちの思惑

このジロでまだ勝利を掴めていないスプリンターたちの飢えは、想像を絶するものがあるでしょう。チーム ヴィスマ・リースアバイクのオラフ・コーイ、コフィディスのミラン・フレティン、Decathlon AG2R La Mondialeのサム・ベネット、Q36.5 プロサイクリングのマッテオ・モスケッティ……彼らにとって、残されたスプリントチャンスは数えるほどしかありません。この第12ステージは、まさに喉から手が出るほど欲しい勝利への切符なのです。

一方で、ナポリでのスプリントを制したアルペシン・デクーニンクのカーデン・グローブスは、自信を取り戻しているはずです。今大会は準備不足が囁かれていましたが、あの完璧なスプリントは、彼が本調子に戻りつつあることを示していました。そして、ナポリで不運にもスプリントの機会を奪われたオラフ・コーイは、ヴィアダーナでその鬱憤を晴らそうと虎視眈々と狙っていることでしょう。チーム ヴィスマ・リースアバイクには、最終リードアウトマンとしてワウト・ファンアールト Aertという心強い存在がいます。彼が完璧なリードアウトを決めれば、コーイの勝利はぐっと近づきます。

しかし、ワウト・ファンアールト Aert自身も、過去にシャンゼリゼ通りで勝利を飾るほどのスプリント力を持つオールラウンダーです。チームとしてはオラフ・コーイを優先する方針ですが、もしコーイに何かあった場合、あるいは展開次第では、彼自身がスプリントに加わる可能性もゼロではありません。一部のファンからは「ワウトのトップフォームはまだ遠い」という声も聞かれますが、彼がトップフォームに近づいている今、その選択肢は決して「おかしな考え」ではないと私は見ています。彼の表情を見る限り、勝利への執念は常に燃え盛っているはずですから。

ポイント争いの行方と、若手たちの台頭

ポイント賞のマリア・チクラミーノ争いをリードするリドル・トレックのマッズ・ピーダスンも、このステージで再びスプリントに加わるでしょう。勝利のためというよりは、ポイントを確実に獲得し、リードを広げるため。彼は純粋なマッサスプリントでは他のスプリンターに一歩譲るかもしれませんが、3週間のグランツールを戦い抜く「フレッシュさ」と「経験」は誰にも負けません。ジロの終盤になればなるほど、彼の真価が発揮されることは、過去のレースデータが証明しています。

そして、今大会でその才能の片鱗を見せつけている若手たちにも注目です。ナポリでカーデン・グローブスに次ぐ2位に入ったコフィディスのミラン・フレティンは、「もっとチャンスがある」と語るほど自信に満ち溢れています。また、スーダル・クイックステップのポール・マニエも、グランツールデビューながらナポリで3位と堂々たる走りを見せました。彼らの勢いは、ベテランスプリンターたちにとっても脅威となるでしょう。

一方で、ジロ最初のスプリントステージを制したピクニック・ポストNLのカスペル・ファンウーデン Udenは、リードアウトマンのブラム・ウェルテンがリタイアしたことが大きな痛手となるはずです。スプリントトレインの崩壊は、そのままスプリンターの力を半減させかねません。チューダーのマイケル・ゼイラートも、安定して上位に食い込んできており、サプライズを起こす可能性を秘めています。イスラエル・プレミア チーム ソリューションテック・ヴィーニファンティーニのコービン・ストロング、XDS アスタナのマックス・カンター、チーム ポルティ・ビジットマルタのジョヴァンニ・ロナルディなど、ダークホースたちも虎視眈々と上位を狙っていることでしょう。スプリントは、時に予測不可能な「おかしなこと」が起こるものですからね。

勝負を分ける最終局面：危険なカーブと戦術

第12ステージの勝負は、ゴール手前350mの鋭角なカーブで決まると言っても過言ではありません。このカーブをいかに良い位置でクリアできるか、それが勝利への絶対条件となるでしょう。各チームのリードアウトトレインは、このカーブに向けて熾烈なポジショニング争いを繰り広げるはずです。

「まるで最終コーナーを曲がった直後にゴールラインがあるようなものだ」と、あるチームのスポーツディレクターは語っていました。これは、単に「速い脚」を持つスプリンターが勝つだけでなく、「完璧なリードアウト」と「リスクを恐れないポジショニング」が求められることを意味します。このカーブで隊列が崩れれば、どれほど脚が残っていても、勝利は遠のいてしまうでしょう。SNS上でもすでにこの危険な最終コーナーについて、多くのファンが「落車が起きるのではないか」と懸念を示しています。「確かに！」と共感を覚える声が多いのも頷けます。

この手のトリッキーなゴールは、過去のレースでも数々のドラマを生んできました。例えば、パリ〜ルーベのゴール前のような、石畳とカーブが連続するような状況では、純粋なスプリント力だけでなく、バイクハンドリングと位置取りの巧みさが問われます。今回はそれほど極端ではないにせよ、集団のスピードが最高潮に達する中で、このカーブをいかにスムーズに、そして安全にクリアできるか。それが、このステージの真の見どころとなるでしょう。

締めくくり

ジロ・デ・イタリア第12ステージ、ヴィアダーナはスプリンターたちにとって、今大会で最も重要な日の一つとなるでしょう。勝利への飢え、そしてコースに仕掛けられた戦術的な罠。これらが混じり合い、どのようなドラマを生み出すのか、私は今から楽しみでなりません。

このステージの結果は、今後のスプリントステージの勢力図を大きく左右する可能性があります。また、総合勢にとっても、落車のリスクを避けるためのポジショニングが重要になるため、決して油断はできません。明日のレースも、日本の皆さんと共に、その戦いの行方を見守り、そして深く考察していきたいと思います。次回のレポートもどうぞお楽しみに！