マルティネスでフランス18年の低迷は終わるか？
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【山田健一コラム】レニー・マルティネス、歴史の扉を開けるか？ ツール・ド・ロマンディ最終日、18年ぶりの偉業へ挑むフランスの若き才能
ツール・ド・ロマンディは、いよいよ最終日を迎える。スイスの地で繰り広げられてきた熱戦のクライマックスは、ジュネーブでの個人タイムトライアルだ。そして今、フランス自転車界が固唾をのんで見守る一人の若者がいる。総合首位に立つ、レニー・マルティネス (Bahrain-Victorious)。彼がもし、このまま総合優勝を勝ち取れば、それはフランス自転車界にとって実に18年ぶりとなる、ワールドツアー・ステージレースでの栄光なのだ。しかし、最終日は彼にとって最も苦手とするタイムトライアル。しかも、僅か数秒差に強敵たちが迫っている。歴史を変える瞬間は訪れるのか、それとも…？
フランス自転車界、18年の渇き
ワールドツアーレベルのステージレースで、フランス人選手が総合優勝の美酒に酔いしれたのは、2007年のクリテリウム・デュ・ドーフィネでChristophe Moreauが成し遂げて以来、実に18年間も遠ざかっている現実がある。グランツールや主要なステージレースで、フランスの選手たちは常に優勝争いに絡んできた。記憶に新しいところでは、ダヴィド・ゴデュ (Groupama-FDJ) が2023年のパリ～ニースで2位に食い込んだり、ロマン・バルデがツール・ド・フランスやクリテリウム・デュ・ドーフィネで何度も表彰台に上ったりした。また、Thibaut Pinotもツール・ド・ロマンディやクリテリウム・デュ・ドーフィネで2位となった経験がある。彼らは皆、頂点まであと一歩というところで涙をのんできた。
そして、このツール・ド・ロマンディに限って言えば、フランス人選手の総合優勝はさらに遠い過去に遡る。最後にこの栄冠を手にしたのは、1999年のLaurent Jalabertだ。四半世紀もの間、フランスの選手はこのスイスの地で総合優勝から見放されているのである。だからこそ、レニー・マルティネスが総合首位で最終日を迎えたことは、フランス自転車界にとって大きな希望であり、同時に計り知れないプレッシャーでもあるのだ。
僅か数秒差、最後の戦い
レニー・マルティネスが総合リーダーのジャージをまとい、最終日のスタートラインに立つ。その背中にかかる期待の重さは、想像に難くない。しかし、彼のリードは極めて僅かだ。2位のロレンツォ・フォルトゥナート (XDS-Astana) とはわずか2秒差、そして3位につけるJoao Almeida (UAEチームエミレーツ・XRG) とは、たったの3秒差なのである。
最終日は17.1kmの個人タイムトライアル。平坦基調ではないにせよ、この距離と、この僅差。はっきり言って、タイムトライアルを得意とする選手にとっては、ひっくり返すのが容易なタイム差と言える。特に、Joao Almeida (UAEチームエミレーツ・XRG) のような、タイムトライアルもこなせるオールラウンダーが相手となると、この3秒差はあってないようなものだと考えた方が良いだろう。レース前の静けさの中に、ピリピリとした緊張感が漂っているのが目に浮かぶようだ。
クライマー vs TTスペシャリストの構図
レニー・マルティネスは、紛れもないピュアクライマーだ。山岳ステージでの軽やかな走りは、まさに天性のもの。しかし、タイムトライアルとなると、その華奢な体格が不利に働くことが多い。空気抵抗を受けやすく、平坦区間でのパワー不足が露呈しやすいのだ。過去の彼のタイムトライアルの成績を見ても、得意とは言えない種目であることは明らかだ。
一方で、Joao Almeida (UAEチームエミレーツ・XRG) は、山岳も走れるが、タイムトライアルも非常に高いレベルでこなすことができる。総合系ライダーとしては、現代において必須とも言える能力を兼ね備えている選手だ。彼にとって、17.1kmという距離は、レニー・マルティネスから3秒以上のタイムを稼ぎ出すのに十分な距離である可能性が高い。現地メディアやSNSでのファンたちの声も、レニー・マルティネスのTT能力に対する不安を指摘するものが圧倒的に多い。「正直、厳しいだろう」「Almeida相手に3秒差は絶望的」といったコメントが散見される。この「クライマー vs TTスペシャリスト」という構図こそが、最終日の最大の焦点であり、レニー・マルティネスにとっての最も高い壁となるだろう。
歴史を変えるか、それとも…
不利な状況であることは間違いない。データや過去の実績だけを見れば、レニー・マルティネスがこの僅かなリードを守り切るのは難しいように思える。しかし、ロードレースは何が起こるか分からない。特に、プレッシャーのかかる最終日の個人タイムトライアルでは、普段通りの力を発揮できない選手もいる。レニー・マルティネス自身が、想像以上の走りを見せる可能性だってゼロではない。
もし、彼がこの苦境を乗り越え、18年ぶりにフランス自転車界にワールドツアー・ステージレース総合優勝をもたらすことができれば、それは彼のキャリアにとって、そしてフランス自転車界全体にとって、計り知れない大きな意味を持つだろう。彼はまだ21歳。この経験は、たとえ逆転されたとしても、必ず彼の未来の糧となるはずだ。
歴史を塗り替える瞬間が訪れるのか、それとも再びフランスは渇きを癒せないのか。ジュネーブでの個人タイムトライアルは、単なる順位争いを超えた、フランス自転車界の歴史における重要な一日となる。日本のサイクルロードレースファンも、ぜひ固唾をのんでその行方を見守ってほしい。
