ニーバリ：「もし望まなければ、ドーピングはしない」

「サメ」ヴィンチェンツォ・ニバリがドーピング問題に切り込む！ 引退後に語った「潔白」と「失われた勝利」

サイクルロードレース界のレジェンド、「サメ」ことヴィンチェンツォ・ニバリが、母国イタリアの主要紙『コッリエーレ・デッラ・セーラ』のインタビューに応じ、現役時代に常に付きまとったドーピング問題について、驚くほど率直かつ辛辣な言葉で語りました。グランツール全制覇という輝かしいキャリアを持つ彼の発言は、多くのファンに衝撃を与えています。

「もし望まなければ、ドーピングはしなかっただろう」。

この言葉に、彼の当時の心境、そしてドーピングが蔓延していた時代の厳しさが凝縮されているように感じます。果たしてその真意とは？ 独自の視点から、ニバリの言葉の裏側を読み解いていきましょう。

「サメ」が語る潔白と疑惑の時代

ヴィンチェンツォ・ニバリは、自身のキャリアを通じて一度もドーピングに手を染めたことはなく、考えることさえなかったと断言しています。「百万回チェックされたし、彼らが100年後に私の試験管を再検査しても何も出ないだろう」とまで言い切るあたり、相当な自信、そして現役時代のプレッシャーが伺えます。

特に印象的だったのは、2013年から2016年にかけて所属したXDS・アスタナ チーム時代の話です。ご存知の通り、このチームは当時、ドーピングスキャンダルに揺れていました。ニバリ自身は陽性反応が出ませんでしたが、彼は「私は勝っていたし、イタリア人だった。チームのボス、アレクサンドル・ヴィノクロフは他のマネージャーと同様に曖昧な過去を持っていた」と語り、自身が厳しくマークされていた状況を明かしました。車や電話の捜索、さらには自宅まで調べられたと確信しているというのは、想像を絶するプレッシャーだったことでしょう。「サイクリストは格好のターゲットだった」という言葉は、当時のサイクリング界全体が置かれていた、疑惑の目に晒される環境を物語っています。

「もし望まなければ、ドーピングはしなかった」発言の真意

インタビューの中で、ニバリはドーピング陽性となった選手たち、中にはチームメイトだった選手についても言及しています。彼は「彼らは戦争に行くようにレースに行った。（ドーピングは）その世代にとって当たり前のことだった」と、当時の自転車界に蔓延していた特殊な文化を認めつつも、続けてこう言い放ちました。「しかし、もし望まなければ、ドーピングはしなかっただろう」。

これは非常に重い言葉です。「環境がそうだったから仕方ない」という言い訳を許さない、個人の選択と責任を厳しく問う姿勢です。一方で、彼は「次の世代は考え方を変え、もし今日サイクリングがクリーンなら、それは私たちのおかげでもあると思う」とも述べています。この部分に関しては、元記事のコメント欄でも議論を呼んでいました。「自分たちはクリーン化に貢献した」という自負と、「当たり前の環境だった」という告白が同居している点に、当時の複雑な状況と、それと戦った（あるいは順応した）選手たちの葛藤が見て取れます。

確かに、ニバリのようなトップ選手がクリーンであり続けたという事実は、その後の世代に大きな影響を与えたことは間違いありません。しかし、その「当たり前」だった環境を根絶するためには、選手だけでなく、チーム、UCI、WADAなど、あらゆる関係者の努力が必要だったことも忘れてはならないでしょう。

奪われた勝利、消えない疑問符

ドーピング問題が語られる上で、常に議論となるのが「失われた勝利」です。ニバリも「ドーピングのせいで何度負けたか考えたことはないが、おそらくたくさんだろう」と悔しさを滲ませています。具体的な例として挙げたのが、リエージュ～バストーニュ～リエージュ2012年大会。彼はカザフスタンのマキシム・イグリンスキーに敗れましたが、イグリンスキーは後にEPO使用で陽性となりました。

さらに、ブエルタ・ア・エスパーニャ2010年大会にも触れています。この大会でニバリは総合優勝を果たしましたが、2位にはエゼキエル・モスケラが入りました。モスケラも後にドーピング違反で追放処分を受けています。ニバリは「もし彼が勝っていて、ドーピングが発覚しなかったら？」と問いかけています。これは、ドーピングが見過ごされてしまうことの恐ろしさ、そしてクリーンな選手が不当な扱いを受ける可能性を示唆しています。

ドーピングによってトップに立つ選手がいる一方で、クリーンな選手がその座を奪われる。これは、スポーツの根幹を揺るがす不正行為です。ニバリのように、後になって「あの時の敗北は、ドーピングのせいだったのか」と思い返さざるを得ない選手が、一体どれほどいたのでしょうか。彼の言葉からは、単なる順位だけでなく、選手たちの努力やキャリアそのものが、不正によって歪められてしまったことへの深い悲しみと怒りが伝わってきます。

ニバリの言葉が投げかける波紋

ヴィンチェンツォ・ニバリの今回の発言は、過去のドーピング時代に改めて光を当てるものです。彼の潔白の主張、当時のチーム状況、そしてドーピングによって失われた可能性のある勝利への言及は、私たちファンに多くのことを考えさせます。

現在のサイクリング界は、過去に比べて格段にクリーンになったと言われています。しかし、それでも不正の影が完全に消えたわけではありません。ニバリの言葉は、「あの時代」を決して風化させてはならないというメッセージであり、同時に、現在のサイクリング界がどのようにクリーンさを維持していくべきか、という問いを投げかけているようにも思えます。

皆さんは、ニバリの言葉から何を感じましたか？ 過去のドーピング問題と、現在のサイクリングのクリーンさについて、ぜひ考えてみてください。