ヴィンゲゴー、ツール最終日のモンマルトル坂に反対

ツール・ド・フランス最終ステージ、石畳導入に揺れる選手たちの本音

ツール・ド・フランスの最終ステージといえば、パリのシャンゼリゼ大通りを駆け抜ける華やかなスプリントフィニッシュが長年の伝統でした。しかし、来たる2025年大会、その慣例が大きく破られることになります。ツール主催者ASOが、最終ステージのコースにモンマルトルの丘への石畳登坂を複数回組み込むと正式に発表したのです。この大胆な変更は、選手たちの間で様々な反応を引き起こしています。特に、総合優勝を狙うトップ選手たちの間には、懸念の声が広がっているのが私の耳にも入ってきています。

モンマルトルの石畳、その正体とは？

ASOが最終ステージに導入を決めたモンマルトルの石畳登坂。これは、サクレ・クール寺院へと続く約1kmの坂で、平均勾配は6.5%と決して侮れないものです。特に、路面が石畳である点が難易度を上げています。実はこの坂、2024年のパリ・オリンピックのロードレースでもコースの一部として使用されました。あの時はオリンピックという特殊な舞台でしたが、今度はツール・ド・フランスの最終日、しかもレース終盤に登場するというのですから、そのインパクトは計り知れません。ASOとしては、最終ステージに新たなスペクタクルを加え、レースを最後まで盛り上げたいという意図があるのでしょう。しかし、この変更が選手たちにどう受け止められているのか、掘り下げてみる必要があります。

ヴィンゲゴー、エヴェネプールが語る「懸念」

このコース変更に対して、早速トップ選手たちがコメントを寄せています。2度のツール覇者であるヨナス・ヴィンゲゴーは、オランダのメディアに対し「正直、僕にとっては必要ないね」と率直な意見を述べています。彼は、オリンピックでは少人数だったから良かったものの、ツールでは150人もの選手が狭い坂でポジション争いをすることになり、「彼らが望む以上のストレスを生む可能性がある」と指摘しています。さらに、「このやり方だと、最終ステージが突然、総合争いにとって重要になるかもしれない」と、総合順位への影響を懸念しています。フィニッシュまで残りどれくらいでモンマルトルを通過するのかなど、詳細がまだ分からない段階でのコメントですが、彼が抱く不安は伝わってきます。

レムコ・エヴェネプールも以前からこのコース変更に批判的でした。彼は「あまり複雑にせず、いつもの周回コースにしておくべきだ」とし、ツールの最初の週で十分なポジション争いがあるのに、最終日にも同じことをしなければならないのは「その頃には十分に疲れているだろう」と語っています。特にスプリンターにとっては、シャンゼリゼでの区間優勝のチャンスが奪われることになり、「モンマルトルは私の目には不要な障害だ」とまで言い切っています。総合を争う両雄が、奇しくも同じような懸念を抱いているのは興味深い点です。

一方で「歓迎」する声も

もちろん、このコース変更を歓迎する声がないわけではありません。マチュー・ファンデルプール der Poelやヤスペル・フィリプセンを擁するアルペシン・ドゥクーニンクは、この石畳の登坂導入を「付加価値」と見ており、「これで全てがより面白くなる」とコメントしています。彼らのチームには、石畳のクラシックで強さを見せる選手や、登りもこなせるスプリンターがいることを考えれば、この変更をチャンスと捉えるのは自然なことです。伝統的なシャンゼリゼでの純粋なスプリント勝負ではなく、最後にちょっとした「仕掛け」があることで、レース展開が多様になり、特定のタイプの選手に有利に働く可能性が出てくるわけです。

山田健一の視点：伝統と革新の狭間で

グランツール担当として長年ヨーロッパのレースを見てきた私の視点では、ASOのこの決定は、伝統の維持と現代的なスペクタクルへの欲求の間で揺れ動く主催者の姿を映し出しているように見えます。ツール最終日のシャンゼリゼは、総合優勝を祝うパレード的な要素と、世界最速スプリンターが決まる舞台という二つの顔を持っていました。しかし、ここ数年は総合成績が確定し、スプリントトレインが隊列を組むだけの比較的静かな展開になりがちでした。ASOはこれに刺激を与えたいのでしょう。

ただ、ヨナス・ヴィンゲゴーやレムコ・エヴェネプールが指摘するように、ツール最終日を迎える選手たちの疲労度はオリンピックとは比較になりません。3週間戦い抜いた体で、狭い石畳の急坂を何度も上り下りするというのは、落車のリスクも伴いますし、総合順位に予期せぬ影響を与える可能性もゼロではありません。特に、上位のタイム差が僅差の場合、最終日のボーナスタイムやメカニカルトラブル一つで順位が入れ替わるという事態も起こり得ます。これは、最終日を「勝利の凱旋」と位置付けてきたツールの哲学とは少し異なる方向性のように感じます。

しかし、アルペシン・ドゥクーニンクのようなチームにとっては、逆にこの混沌がチャンスです。マチュー・ファンデルプール der Poelのようなパンチャータイプや、石畳に強い選手が、最後に一発を狙う展開になるかもしれません。これは、レースファンにとっては確かにエキサイティングな要素となり得ます。「なるほど！」と思わせる意外な展開が生まれる可能性を秘めているのです。

次なるツール、最終日のドラマはいかに？

このモンマルトルの石畳導入が、来年のツール・ド・フランスの最終ステージにどのようなドラマをもたらすのか。選手たちの本音を聞いていると、期待と不安が入り混じっているのが分かります。伝統的なシャンゼリゼの高速スプリントが見られなくなるのは少し寂しい気もしますが、最終日に総合争いが動くかもしれない、あるいは意外な選手が区間優勝を掴むかもしれないという可能性は、「次も読みたい！」と思わせる魅力に繋がります。

特に、タデイ・ポガチャルとヨナス・ヴィンゲゴーの「デュエル」が予想される来年のツール。彼らのチーム、UAEチームエミレーツ・XRGとチーム ヴィスマ・リースアバイクが、この最終ステージのコース変更にどう対応してくるのかも注目です。もしかしたら、最終日のために特別な機材や戦術を用意してくるかもしれません。来年の7月、パリの街で繰り広げられるであろう、伝統破りの最終ステージから目が離せません。