ポガチャルの支配に驚嘆、データ保管を提案

圧倒的支配者Tadej Pogacarへの異例の提言 「科学が進歩するまでデータを保管すべき」

今、ヨーロッパのサイクルロードレース界で最も注目されているのは、間違いなくTadej Pogacar（UAEチームエミレーツ・XRG）の圧倒的な強さでしょう。彼が出場するレースでは、まるで他の選手が別次元で走っているかのような光景を目の当たりにします。そんな中、フランスの古豪チーム、トタルエネルジーを率いるジャン＝ルネ・ベルノードー監督から、彼のパフォーマンスに関する異例ともいえる提言が飛び出しました。

疑念の歴史と求められる透明性

スペインのスポーツ紙「マルカ」が報じたところによると、ベルノードー監督はフランスのメディアに対し、Tadej Pogacarのパフォーマンスについて言及。「彼のパラメーター、ワット数…彼がやっていることを公開すべきだ」と、かなり踏み込んだ発言をしました。これは単に驚異的な強さへの感嘆だけではない、別の感情が込められているように感じます。

なぜ、このような要求が出るのか。それは、サイクリング界が過去に経験した暗い歴史、特に「フェスティナ事件」のような大規模なドーピングスキャンダルが深く根差しているからです。ベルノードー監督も「我々は疑念と共に生きている。フェスティナのケースがあった。そして、また同じことが起きないとは限らない」と、過去を引き合いに出しています。彼の言葉からは、サイクリングの信用が一度失われたことへの強い危機感と、二度と同じ過ちを繰り返したくないという切実な願いが伝わってきます。ポガチャルの「次元の違う」強さが、良くも悪くも過去の疑念を呼び起こしてしまう。これは、競技が健全に発展していく上で避けて通れない課題なのかもしれません。

MPCC非加盟チームへの暗黙の批判

ベルノードー監督は、ドーピング対策において公式ルールよりも厳しい基準を設けているMPCC（信用できるサイクリングのための運動）に言及し、これに加盟しないチームへの批判も匂わせました。「チームが（MPCCに）加盟することを何が邪魔しているのか？」と問いかけ、「我々はEPOと戦った。サイクリングは調査によって高い代償を払った」と、過去の苦い経験を繰り返すまいという決意を示しています。

これは、MPCCに加盟しているトタルエネルジーのようなチームからすれば、非加盟チーム、特にUAEチームエミレーツ・XRGのような資金力のあるトップチームが、より厳格な自主規制に加わらないことへの不満の現れとも読み取れます。ヨーロッパのサイクリング界には、単にルールを守るだけでなく、積極的に透明性を高め、信用を築こうとする強い意識があります。ベルノードー監督の発言は、その意識の表れであり、現状のトップチームの「透明性」に対する疑問符を投げかけているのです。

科学の進歩を待つ「データ保管論」の真意

そして、最も印象的だったのが、「彼のサンプルを保管し、科学が進歩する10年後に利用できるようにすべきだ。アイデアがないなら、私が提供する。しかし、もっと透明になる必要がある。特にこれほど支配的なときは」という提言です。これは、現在の科学や検査技術では検出できない可能性があるもの、あるいは将来的に新たな発見があるかもしれないという含みを持たせた発言です。

もちろん、これはTadej Pogacar個人への直接的な「疑い」というよりは、彼の驚異的なパフォーマンスが、過去の経験から来るサイクリング界全体の「トラウマ」を刺激していると捉えるべきでしょう。ベルノードー監督は、ポガチャルを「例外的」と認めつつも、彼のような「支配的な」アスリートだからこそ、最高レベルの透明性が求められると考えているのです。これは、選手への敬意と同時に、サイクリングという競技自体の未来に対する強い責任感からくる発言ではないでしょうか。彼の言葉のトーンからは、単なる批判ではなく、競技の健全性を願うベテラン監督の苦悩も感じ取れました。

Tadej Pogacarの強さは本物であり、彼の努力と才能の賜物であることは多くのファンが信じているはずです。しかし、サイクリング界が過去の過ちから完全に自由になるためには、このような議論も必要不可欠なのかもしれません。今後、UAEチームエミレーツ・XRGやTadej Pogacar自身、そしてUCIやWADAといった関係機関が、このベルノードー監督の提言にどう応えていくのか。ヨーロッパのレース現場から、引き続きその動向を注視していきたいと思います。