ウィギンス、アームストロングに言及「彼に奪われた」

サー Bradley Wiggins、Lance Armstrongに「奪われた」過去を語る

2012年のツール・ド・フランス覇者であり、イギリスサイクル界のレジェンドであるサー Bradley Wigginsが、最近のポッドキャストでかつての栄光の時代、そしてその影に隠されたドーピング問題について赤裸々に語りました。特に注目を集めているのは、ドーピングによって全てのタイトルを剥奪されたLance Armstrongに対する彼の複雑な思いです。

Wigginsは、「言いたいことを言っておけばよかった」と後悔の念を滲ませています。2013年、Armstrongのスキャンダルが発覚し、彼が公にArmstrongを非難するよう求められた時のこと。「Lanceについて何を言うべきか指示された。それは私の最大の心残りだ。Team Skyを代表していたからやったが、私の本心ではなかった」と告白したのです。

蘇るドーピング時代の影と「奪われた」ポディウム

Wigginsが特に悔やんでいるのは、2013年のツール・ド・フランスです。この年、彼は総合4位に入りましたが、Armstrongの失格により繰り上がりで3位となる可能性がありました。しかし、その結果は公式には認められていません。彼は「彼は恐らくあのポディウムを私から奪った。それが何を意味するか、経験してみたかった」と語っています。

あの時代のレースは、今振り返ると多くの「もしも」が頭をよぎります。誰がクリーンで、誰がそうではなかったのか。公には語られなかった真実が、選手たちのキャリアや人生にどれほどの影響を与えたか。Wigginsの「私から奪った」という言葉には、単なる順位以上の、何か大切なものを失ったことへの深い悲しみが込められているように感じます。あの時代の空気、そして「勝つためなら何でもする」という暗黙の了解のようなものが、彼のキャリアにも影を落としていたのかもしれません。

Team Skyの「クリーン」戦略と内なる矛盾

Wigginsの発言は、彼が所属していたTeam Sky（現 チーム イネオス・グレナディアス）の内幕にも触れています。特に、当時のチーム代表だったDave Brailsford氏が推進した「Winning Behaviours（勝つための行動）」や、現在も続く「Project 21」といった文化について、「それが何を意味するのか、私には全く分からなかった…おそらくスタッフ向けだったのだろう。私はただレースがしたかっただけだ」と突き放すように語っています。

Team Skyは「クリーン」なチームであることを強く打ち出していましたが、その裏で選手たちがどのようなプレッシャーを感じていたのか、外からは窺い知れません。Wigginsの言葉は、チームが掲げる理念と、選手個人の思いとの間に存在したであろうギャップを示唆しています。彼が感じていた違和感は、チームの管理体制や文化に対する批判とも受け取れます。「クリーン」を標榜することの難しさ、そしてそれが選手に課す重圧について考えさせられますね。

過去との決別、そして引退後の苦悩

Wigginsは、引退後の10年間を「神よ、この数年間は何だったのだろう？」と振り返っています。アルコール依存や経済的な問題とも戦ってきた彼は、この苦しい時期を経て、改めて過去と向き合おうとしているのかもしれません。彼の言葉は、現役時代の栄光だけが全てではない、引退後のセカンドキャリアの難しさ、そしてドーピング時代の遺産が、今なお選手たちの心に重くのしかかっている現実を浮き彫りにしています。

「助けてくれる人全てが友達ではないし、傷つける人全てが敵ではない」という彼の言葉は、まさに波乱万丈のキャリアと人生を経てたどり着いた境地でしょう。あのLance Armstrongとの関係性、チームとの関係性、そしてメディアとの関係性。様々な人間関係の中で、彼は多くの傷を負ってきたのかもしれません。

慈善活動へ、そして新たな一歩

ポッドキャストでは、クリケットのレジェンド、Ian Botham氏との交流や、9月に開催される「Sir Bradley Wiggins Cycle Challenge」という慈善ライドについても語られました。ポーツマスからロンドンのローズ・クリケット・グラウンドまで自転車で走るこのイベントは、白血病やバッテン病など、様々な慈善団体を支援するためのものです。

過去の栄光と苦悩を乗り越え、社会貢献へと目を向けるWiggins。彼の正直な言葉は、サイクルロードレース界の暗部を再び照らし出すと同時に、一人のアスリートが人間として成長していく過程を見せているようにも感じます。あの若い頃に言えなかった本音を、今になって語る彼の姿に、皆さんは何を感じるでしょうか？サイクルロードレースの歴史は、単なるレースの結果だけでなく、選手たちの人間ドラマによって紡がれているのだと、改めて感じさせられました。