バルデ：「まだ感情に浸っているわけではない」

ロマン・バルデ、最後のジロへ – 感情を抑え、現役選手として集中

皆さん、こんにちは。グランツール担当の山田健一です。

ヨーロッパはロードレースシーズン真っ只中。特に今は、イタリアを舞台にした「ジロ・デ・イタリア」が最大の注目を集めています。今年のジロには、私たち日本のファンにとっても特別な意味を持つ選手が出場しています。それが、フランスのベテラン、ロマン・バルデです。

彼にとって、このジロがキャリア最後のグランツールとなるからです。引退を来月に控えた彼が、この大舞台をどのように迎えているのか。現地からのレポートをもとに、彼の胸の内を探ってみましょう。

終わりを意識しないプロフェッショナル

イタリアのティラナで、開幕を前にしたロマン・バルデに話を聞く機会がありました。キャリアの終盤について尋ねると、彼は意外な答えを返しました。

「終わりが近いとは、まだ考えていないんです。本当の最後になるのは、6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネでしょう。地元の道で、最後のゼッケンをつけるわけですから、その時はきっと違う感情になると思います。でも、今のジロに向けては、まだ感情に浸っている状態ではありません」

そう語る彼の表情には、感傷的な様子は一切なく、むしろ集中力に満ちていました。なぜ、キャリア最後のグランツールにジロを選んだのか？ その理由もまた、興味深いものでした。

「ジロは、私にとってまだ『やり残したことがある』と感じるレースなんです。発見が遅かったせいか、今回でまだ4回目の参加。この道で、まだ最高の自分を見せられていないという感覚があるんです。だからこそ、このレースに惹かれました」

チーム内の雰囲気も、彼を「引退間近の選手」として扱っていないと言います。「誰も私の引退が近いことを思い出させたりしません。まるで来年も現役を続けるかのように、皆が集中している。それは同時に、私がまだ彼らの目には『現役の選手』として映っているということでしょう。心地よく、力になります」

キャリアの幕引きを意識しつつも、目の前のレースに全力を尽くす。これこそが、長年トップレベルで戦ってきたプロフェッショナルなのだと、彼の言葉を聞いて改めて感じました。

ジロへの特別な思いと過去の経験

ロマン・バルデは、ツール・ド・フランスではステージ優勝や総合表彰台経験もある、フランスを代表するクライマーです。しかし、ジロ・デ・イタリアでは、これまで総合上位争いに絡むことはあっても、ツールで見せたような爆発的な活躍は少なかったかもしれません。

それでも、彼はジロというレースに特別な魅力を感じています。

「引退まであと1ヶ月半という状況で目標設定が難しくないか、と聞かれることもあります。でも、私はまだ完全に競争の中にいますし、結果を出すためにここに来ました。もちろん、自分自身に多くの問いかけはしていますが…正直に言うと、キャリアの終わりにこれほど近いのに、完全な自信があるかと言えば、そうではありません。これは少しパラドックスですね」

今シーズンの前半戦は、彼自身が望むような結果が出せていなかったと言います。しかし、春のクラシック、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの走りに、光明を見出したようです。

「リエージュ〜バストーニュ〜リエージュが、私を安心させてくれたと言ってもいいでしょう。結果は82位と振るいませんでしたが、内容は去年より良かったと感じています。グランツールに臨むときは、自分が良い走りができるという確信が必要です」

そして、彼はジロというレースの特性について熱く語りました。

「私は『終わった選手』だとは考えていません。本物の野心を持ってここにいます。なぜなら、ジロというレースは何でも起こりうる、何も事前に書かれていないレースだからです。例えば、ブエルタ・ア・エスパーニャは少し違います。シナリオに驚かされることはあまりない。でも、イタリアでのこの3週間は、常識を覆します。そして、私はまだその重要なアクターでありたいのです」

予測不能な展開、波乱のドラマ。ジロ・デ・イタリアが持つ独特の魅力に、彼は今、最後の挑戦者として飛び込もうとしています。

最後のジロ、そしてその先へ

感情を内に秘め、あくまで現役選手として最後のグランツールに挑むロマン・バルデ。彼の走りは、長年のキャリアの集大成となるのでしょうか。マリア・ローザを目指す集団の中で、彼がどんな輝きを見せてくれるのか、目が離せません。

ジロでの活躍、そして6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネでの本当のラストランまで、彼のキャリアを最後まで追いかけたいと思います。皆さんは、ロマン・バルデの最後のジロに何を期待しますか？ ぜひ、熱い声援を送りましょう！