レムコ・エヴェネプール、リエージュでポガチャール打倒へ『VDB』を参考にすべき

伝説と現代が交錯するリエージュへ ～ レムコか、それともタデイか？ ～

今週末、ロードレースの世界はベルギー、リエージュの地へ熱い視線を注ぎます。「ラ・ドワイエンヌ（最古参）」ことリエージュ～バストーニュ～リエージュ。このクラシック・モニュメントは、いつの時代もドラマを生み出してきました。そして今年、我々はまたしても歴史的な一戦を目撃するかもしれません。そう、レムコ・エヴェネプールとタデイ・ポガチャル、現代ロードレース界の二大巨頭が、この地で雌雄を決する可能性が高いのです。

グランツールを中心に欧州各地を取材してきた私の視点から見ても、この二人の対決は特別な輝きを放っています。特にリエージュという舞台は、単なるフィジカルだけでなく、戦術、そして何より選手の「魂」が試される場所。今回は、オランダのベテランコラムニスト、ユーゴ・クーレヴィッツ氏の筆による興味深い視点を交えながら、今年のラ・ドワイエンヌ、そして現代のスターたちの本質に迫ってみたいと思います。

VDBの伝説、そして現代への示唆

ユーゴ・クーレヴィッツ氏はコラムの中で、1999年のリエージュ～バストーニュ～リエージュを制したフランク・ヴァンデンブルック（VDB）の伝説に触れています。当時、彼はレース前日に驚くべき大胆さで、自身の攻撃ポイントを具体的に公言したというのです。サン・ニコラ通りの、それも「番地まで」指定して。そして実際に、その予告通りの場所でアタックを決め、ライバルであるミケーレ・バルトリを打ち破り、見事な勝利を飾りました。

これは現代では考えられないことかもしれません。今の選手たちは、ソーシャルメディアの発達もあって、レース前から手の内を明かすようなことはまずありません。しかし、VDBのこのエピソードは、当時のレースがいかに個と個のぶつかり合いであり、心理戦の側面も強かったかを物語っています。「俺はここで仕掛けるぞ！」という宣言は、相手への揺さぶりであり、自分へのプレッシャーでもあったはずです。そして、それを実行してしまう強さ。いやはや、まさに「イル・ビンボ・ドーロ（黄金の少年）」と呼ばれた男の面目躍如といったところでしょう。

レムコ・エヴェネプールとVDB、魂の共通項

時代も、選手を取り巻く環境も大きく変わりました。ですが、ユーゴ・クーレヴィッツ氏は、レムコ・エヴェネプールの中に、このVDBに通じる「何か」を見出しています。それは、単なる成績やパルマレス（実績）の比較ではありません。レムコ・エヴェネプールは、すでにVDBのそれをあっという間に凌駕していますが、クーレヴィッツ氏が指摘するのは、その「レフ（度胸）」、「ブラヴーレ（勇敢さ）」、そして「オンフェルスネーデン・クラッセ（純粋なクラス、格）」です。

VDBは最高級の機材にこだわり、リエージュのために特別なチタンフレームのバイクを用意したといいます。レムコ・エヴェネプールもまた、細部にこだわり、時には機材にゴールドのアクセントを加えるようなファッショナブルな一面も持っています。そして何より、二人には観衆を熱狂させ、同時に二分してしまうカリスマ性があります。「VDBのファンか、アンチか」。そして今、「レムコ・エヴェネプールのファンか、アンチか」。成功すれば国中が沸き立ちますが、ちょっとした言動で批判の矢面に立つこともある。レムコ・エヴェネプールは、そうした自分の置かれた状況をよく理解しているように見えます。彼は飾らない。「見えているものが全てだ」。その率直さが、VDBの歯に衣着せぬ物言いに重なるのかもしれません。

近況とリエージュへの期待

直近のレースを見ても、二人の対決は盛り上がりを見せています。アムステルゴールドレースでは、マルテ・ベルグエドセスやテルブライトの登りでレムコ・エヴェネプールとタデイ・ポガチャルが火花を散らしましたが、落車の影響もあったレムコ・エヴェネプールは勝利には届かず、マティアス・スケルモースが漁夫の利を得ました。しかし、その数日後のフレッシュ・ワロンヌでは、フイの壁、特にクリキエリオン・ベンドでタデイ・ポガチャルが圧倒的な加速を見せ、レムコ・エヴェネプールを含むライバルたちを一掃しました。あのフイの壁で、タデイ・ポガチャルだけが別次元のスピードで駆け上がっていく姿は、まさに「怪物」と呼ぶにふさわしいものでした。

このタデイ・ポガチャルの圧倒的な強さを前に、リエージュ～バストーニュ～リエージュではどのような展開になるのでしょうか。ユーゴ・クーレヴィッツ氏も「ザ・デュエル」と表現するように、今年のラ・ドワイエンヌは、二人の直接対決に大きな注目が集まっています。タデイ・ポガチャルがエディ・メルクス以来、50年ぶりのリエージュ3勝目を飾るのか。それとも、レムコ・エヴェネプールがベルギー人として、そして自身のリエージュ3連覇を達成するのか。

勝負の行方を占う

リエージュ～バストーニュ～リエージュは、フイの壁のような短く爆発的な登りだけでなく、ラ・ルデュートやコート・サン・ニコラといった長く厳しい登り、そして平坦区間での位置取りやチームの連携も重要になってくるレースです。タデイ・ポガチャルは短期的な急勾配でのパワーが驚異的ですが、レムコ・エヴェネプールは独走力に長け、長い距離でのペース維持にも優れています。

レムコ・エヴェネプール自身が、タデイ・ポガチャルのような「フェノメノン（怪物）」相手には、単にマークするだけでは勝てないと理解しているとクーレヴィッツ氏は示唆しています。これは非常に重要なポイントです。かつてサッカー選手としてプレーし、ディフェンダーだった経験を持つレムコ・エヴェネプールは、ロードレースの世界では「攻撃こそ最大の防御」を体現する選手へと変貌しました。彼はきっと、VDBのように、あるいはそれ以上に大胆な一手で勝負を挑んでくるはずです。

タデイ・ポガチャルの圧倒的な力か、レムコ・エヴェネプールの意地と戦略か。ラ・ドワイエンヌの長い道のりで、二人の駆け引き、チームの動き、そして何より選手自身の「魂」がぶつかり合う瞬間が必ず訪れるでしょう。1999年のVDBのように、記憶に残るアタックが生まれるのか。今から胸が高鳴りますね。このリエージュでの戦いは、今年のツール・ド・フランスやUCI世界選手権 キガリでのビッグマッチへ向けた、重要な布石となることは間違いありません。