カラパス

フィネストレの猛攻：サイモン・イェーツ、7年越しの復讐劇

第20ステージの主役は、間違いなくサイモン・イェーツ（Jayco AlUla）でした。彼はスタート前からどこか吹っ切れたような表情をしていましたね。そして、その表情が本物であったことを、コッレ・デッレ・フィネストレの急勾配が証明しました。ゴールまで50km以上を残したこの難関で、サイモン・イェーツはまさかのロングアタックを敢行。これが、この日のレースを決定づける「一手」となったのです。

彼の仕掛けは、まさに電光石火。集団は一瞬、何が起きたのか理解できないほどでした。そして、チームメイトであるクリス・ハーパーが先に飛び出しステージ優勝を飾るという、チームJayco AlUlaにとって完璧なシナリオが展開されたのです。クリス・ハーパーは5時間27分29秒という激闘を制し、ステージ優勝。そのわずか1秒後にはサイモン・イェーツがフィニッシュラインを越え、ステージ3位。この結果は、彼が7年前にこのジロで味わった苦い経験、つまりマリアローザを着ながらも最終盤で失速したあの悪夢からの、完璧な「復讐」を意味していました。現地メディアも「7年越しのコルサローザ制覇」と報じていましたが、彼の目に宿る執念は、その言葉以上に雄弁でしたね。

混沌のラテンアメリカ勢：デルトロの失墜とカラパスの痛烈な批判

サイモン・イェーツの猛攻が始まった時、総合争いの中心にいたのは、イサーク・デルトロとリチャル・カラパス（UAEチームエミレーツ・XRG）でした。彼らは、サイモン・イェーツのアタックに反応できませんでした。特に、マリアローザを着ていたはずのイサーク・デルトロの失速ぶりは、現地で見ていても痛々しいほどでした。彼の表情からは、焦燥と絶望が読み取れましたね。

そして、レース後、リチャル・カラパスが放った言葉は、その日のレースの全てを物語っていました。「デルトロがジロを失った、彼はうまく走れなかった」——ユーロスポーツのインタビューで、リチャル・カラパスはそう断言しました。この言葉は、彼の怒り、そして何よりもチームとしての連携が機能しなかったことへの深い失望を表しています。2019年のジロ王者であるリチャル・カラパスは、このステージでデルトロのために懸命に牽引していました。しかし、その努力は報われなかった。彼の「私たちは最強になれたはずなのに、最も賢い者が勝った。イェーツと彼のチームはやるべきことをやった。私たちはやらなかった」というコメントは、単なる悔しさ以上の、チーム内部の不協和音を暗示しているように私には聞こえました。

チーム内の不協和音：UAEチームエミレーツ・XRGの誤算

リチャル・カラパスの痛烈なコメントの背景には、UAEチームエミレーツ・XRGのチーム戦略における深刻な誤算があったと見ています。レース中、リチャル・カラパスが先頭で懸命に牽引する一方で、チームカーからは明確な指示が届いていなかったという情報も入ってきています。山岳のスペシャリストであるリチャル・カラパスが自らの脚を使ってデルトロを支えようとしましたが、その努力は報われず、コッレ・デッレ・フィネストレを越えた時点で、表彰台の可能性さえも危うくなっていたのです。

ある関係者は、レース後に「彼らは同意できず、服を救うよりも一緒に沈むことを選んだ」と私に語ってくれました。これは、まさにチーム内のコミュニケーション不足や、判断の遅れが招いた悲劇と言えるでしょう。強豪チームであるUAEチームエミレーツ・XRGが、この重要な局面で連携を欠いたことは、今後のグランツール戦略にも大きな影響を与えるかもしれません。選手個々の能力が高いだけに、その歯車が噛み合わなかった時の代償は大きい、ということを改めて痛感させられました。

ローマでの戴冠、そして残された課題

この結果、最終ステージとなるローマ市街でのパレードランを残すのみとなったジロ・デ・イタリア2025は、ほぼサイモン・イェーツの総合優勝で決着したと言っていいでしょう。彼にとって、そしてJayco AlUlaにとって、これはまさに完璧なジロでした。

しかし、敗れた者たちの悔しさは、言葉に尽くせません。特にイサーク・デルトロとリチャル・カラパスの二人は、このステージで多くのものを失いました。リチャル・カラパスの率直な言葉は、彼らの間にあったであろう感情的な隔たりを浮き彫りにしています。来シーズンに向けて、UAEチームエミレーツ・XRGがこの苦い経験をどう活かし、チームとしての結束力を再構築していくのか。そして、今回勝利を掴んだサイモン・イェーツが、これからのグランツールでどのような走りを見せてくれるのか。サイクルロードレースの醍醐味は、結果だけでなく、その裏にある人間ドラマやチーム戦略にこそあります。次回のレースも、その深層に迫る記事をお届けできるよう、私も現地で目を凝らしていきたいと思います。