エヴェネプール、ツール・ド・フランス計画を堅持

レムコ・エヴェネプール、ツールへ向け計画通り――ベルギー選手権両種目出場決定の意図は？

ロマンディ一周の最終個人タイムトライアルで見事な勝利を飾り、春の戦いを締めくくったレムコ・エヴェネプール。彼の次の照準は、いよいよキャリア最大の目標であるツール・ド・フランスです。AGインシュランス・スーダル チーム Quick-Stepの若きエースが、グランツール開幕へ向けた準備を着々と進めていることが明らかになりました。特に注目すべきは、ツール直前に控えるベルギー選手権。ここで彼がどのような選択をしたのか、そしてその裏に隠された意図は何なのか。長年ヨーロッパのレースを追い続けてきた私の視点から、深く掘り下げてみましょう。

ベルギー選手権、両タイトルを狙う？

レムコ・エヴェネプールは、ツール・ド・フランスへの最終調整として、母国ベルギーのナショナル選手権に参戦することを正式に決定しました。しかも、個人タイムトライアルとロードレース、両方です。ベルギー選手権個人タイムトライアルは6月27日、ロードレースは6月29日に行われます。ツール開幕が7月5日ですから、文字通り直前のレースということになります。

彼の言葉からは、この選択に対する揺るぎない決意が感じられます。現地メディア『Het Nieuwsblad』の取材に対し、「今週、二つのベルギー選手権に出場することを正式に決めました。個人タイムトライアルもロードレースも走ります」と明言しています。

過去を振り返ると、エヴェネプールはベルギー選手権個人タイムトライアルで輝かしい成績を残しています。デビュー年の2019年に銅メダル、2年後の2021年には銀メダルを獲得。そして2022年には遂にベルギーチャンピオンジャージを手にしました。しかし、2023年は落車もあり4位、昨年2024年は欠場しています。ロードレースでも2023年にタイトルを獲得していますが、こちらも昨年は欠場でした。

今回の両種目出場決定は、単なるツールへの調整というだけでなく、再びベルギーチャンピオンジャージを獲得したいという強い意欲の表れでもあると、私は見ています。特に個人タイムトライアルは、今年のツールでも総合争いの鍵を握る要素となるでしょう。平坦基調のコースで行われるベルギー選手権TTは、彼の力試しにはうってつけです。そして、ロードレースは展開が読めない難しさがありますが、ここで勝てばベルギーチャンピオンとしてツールに乗り込むことができる。これは選手にとって非常に大きなモチベーションとなります。

ツールへ向けた最終準備のロードマップ

ロマンディ一周で個人タイムトライアルを制し、春の戦いを終えたレムコ・エヴェネプールは、これからツール・ド・フランスに向けた本格的な準備に入ります。彼が公表している今後のレーススケジュールは非常に明確です。

まず、6月8日から15日にかけて開催されるクリテリウム・デュ・ドーフィネへの出場。これはツール・ド・フランスの前哨戦として最も権威あるレースの一つであり、多くのツール総合優勝候補が最終調整の場として選ぶことで知られています。山岳ステージが多く含まれるドーフィネは、エヴェネプールにとって自身のクライミング能力や総合力、そしてチームとの連携を確認する絶好の機会となるでしょう。

ドーフィネの後、前述のベルギー選手権を経て、いよいよツール・ド・フランスへ突入します。さらに、ツール後には8月2日のサンセバスチャン・クラシカ、そして9月にはルワンダのキガリで行われる世界選手権の個人タイムトライアルとロードレースにも出場する予定です。

このカレンダーを見る限り、エヴェネプールは2025年シーズンをツール・ド・フランスでの総合優勝、そして世界選手権でのタイトル獲得という二つの大きな目標に焦点を当てていることが分かります。ドーフィネでの調整、ベルギー選手権での実戦感覚維持とモチベーション向上、そしてツールでのピークという流れは、まさにグランツールエースの王道パターンと言えます。

野心と隣り合わせのリスク

ベルギー選手権への両種目出場は、確かに実戦感覚を養い、ナショナルチャンピオンという名誉あるジャージをツールに持ち込むチャンスです。しかし、ツール開幕のわずか1週間前に国内選手権を走るという選択は、常にリスクと隣り合わせであることも忘れてはなりません。

特に心配されるのは、落車のリスクです。過去にも、ツール直前のレースで有力選手が落車に見舞われ、ツール出場を断念したり、万全のコンディションで臨めなかったりといった例は少なくありません。エヴェネプール自身、2023年のベルギー選手権TTで落車を経験し、その後のレースに影響が出た可能性もゼロではありません。

ブラスハートで行われるベルギー選手権TTのコースは「ビリヤード台のように平坦」と表現されるほどフラットですが、それでも落車の可能性はあります。そしてビンシュがスタート・フィニッシュ地点となるロードレースは、展開によっては激しい位置取り争いや危険な場面が発生することも十分に考えられます。

AGインシュランス・スーダル チーム Quick-Stepとしては、エースであるエヴェネプールを万全の状態でツールに送り込みたいはずです。チーム首脳陣は、彼の強い希望と、ツールでの成功という最大の目標との間で、慎重な判断を下したことでしょう。この選択が吉と出るか凶と出るか、ツール開幕まで目が離せません。

2025年シーズン、エヴェネプールの真価が問われる

2025年シーズンのレムコ・エヴェネプールは、ツール・ド・フランスという最大の壁に挑みます。そして、その後のサンセバスチャン・クラシカや世界選手権といったビッグレースにも照準を合わせています。

彼の才能に疑いの余地はありません。個人タイムトライアルでの圧倒的な力、そして山岳での粘り強さ。しかし、3週間続くグランツールでの総合争いは、単なる強さだけでなく、チーム力、戦略、そして何よりも運も必要とします。

彼のカレンダーは非常に野心的であると同時に、彼の自信の表れでもあるでしょう。ツールでの成功は、彼のキャリアを次のレベルへと押し上げるだけでなく、ベルギー国内、そして世界のサイクルロードレース界における彼の地位を確固たるものにするはずです。

ドーフィネでの仕上がり具合、ベルギー選手権での走りは、ツールでの彼のパフォーマンスを占う上で重要な指標となるでしょう。果たして彼は、ツール・ド・フランスという巨大な舞台で、自身の力を最大限に発揮できるのか。そして、世界選手権での二冠という偉業達成の可能性は？ 2025年の後半戦は、レムコ・エヴェネプールの真価が問われる、まさに正念場となるでしょう。

締めくくり

レムコ・エヴェネプールのツール・ド・フランスに向けた計画は、着々と進行しています。ベルギー選手権への両種目出場は、彼の勝利への飽くなき探求心と、ツールでの成功に向けた強い意志を感じさせる選択です。ドーフィネ、ベルギー選手権、そしてツールへ。彼の夏は、熱く、そして波乱に満ちたものになる予感がします。私たち日本のファンも、その一挙手一投足から目が離せませんね。