ポガチャル、なぜ二度も「早すぎた」のか

日本のサイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは！ジャーナリストの松崎 愛です。世界中のレースをリアルタイムで追いかける私の目に飛び込んできたのは、先日のアムステル・ゴールドレースで起きた、なんともドラマチックな結末でした。あの タデイ・ポガチャル が敗れた？ しかも、彼の代名詞とも言える「アタック」、そして最後の「スプリント」という、二つの局面で勝機を逸したというのです。これは、ただの結果以上の、深い戦術と人間のドラマが隠されているに違いありません。

二度の「早すぎる」仕掛けが招いた結末

アムステル・ゴールドレース、そのフィニッシュラインで マティアス・スケルモース に数センチ差で敗れた タデイ・ポガチャル。一体、どこで勝負は決まったのでしょうか？多くの人が「まさか」と思ったはずです。グランツールをいくつも制し、今年の ロンド・ファン・フラーンデレン を圧倒的な力で勝ち、 パリ〜ルーベ でも2位に入った「絶対王者」が、このアルデンヌクラシック緒戦で勝利を逃したのですから。

レース終盤、残り8km地点で レムコ・エヴェネプール と マティアス・スケルモース が追いつき、3人になった時、多くのファンはポガチャルが序盤から仕掛けたロングアタックの影響を考えずにはいられなかったでしょう。何しろ、彼は残り47.6kmという遥か手前で、 ジュリアン・アラフィリップ と共にアタックし、その後単独で突き進んだのですから。「ちょっと早すぎたかな？」と誰もが感じた瞬間です。

レース後、ポガチャル自身もこう認めています。「 ジュリアン・アラフィリップ がもっと長く一緒にいてくれることを願っていましたが、最初のあの攻撃では少し熱狂しすぎていたかもしれません」。 ロンド・ファン・フラーンデレン、 パリ〜ルーベ と続いたタフな週末を終えたばかりの彼に、単独での長い逃げを打ち切るだけのフレッシュさは、この日は残されていなかったのかもしれません。

しかし、それでも彼は最終スプリントに残るだけの脚を持っていました。 レムコ・エヴェネプール を抜き去り、 マティアス・スケルモース をも引き離したかに見えたその時…そう、ゴールまでわずか3mの地点でした。そして、私の分析では、この最後の局面こそが、ポガチャルが「二度目」の、そして決定的な「早すぎる仕掛け」をしてしまった瞬間だったのです。

風と位置取り、そしてスプリントの「読み」

ゴール前200m、3人のスプリントが始まりました。 レムコ・エヴェネプール の後ろにぴったりとついていたポガチャルが、真っ先にペダルに立ち上がります。すぐに マティアス・スケルモース も反応しました。この時、風は左から吹いていました。彼らは一瞬、沿道のバリアーや観客に守られていましたが、エヴェネプールが右側にコースを変えたことで状況が変わります。

エヴェネプールは風に完全に晒されることになりますが、同時に後続の選手が風を避けられる右側への進路を狭めました。「彼はとても賢く走った」とスケルモースは語っていますが、確かにエヴェネプールの動きは他の選手のコース取りを難しくしました。しかし、よく見ると、スケルモースはポガチャルよりもわずかにエヴェネプールの後ろ、そしてバリアー寄りの「ポケット」のような場所で、風をうまく避けていたことが分かります。この一瞬の位置取りの差が、後々響いてくるのです。ちなみに、この後方で4位争いのスプリントを制した ワウト・ファンアールト は、終始コース左側のバリアー沿いをキープし、風を避けていました。ベテランの駆け引き、唸らせられますね。

わずか数センチを生んだ「早すぎた加速」

そして勝負の分かれ目、ゴール前100mです。ここでポガチャルは、完全にエヴェネプールのドラフティング（空気抵抗の軽減効果）から外れ、剥き出しの状態でスプリントを開始します。一方、スケルモースはまだエヴェネプールとポガチャルの後ろ、小さな風除けの中でタイミングを伺っていました。

スケルモースがその「ポケット」から飛び出したのは、ゴール前およそ50m。ポガチャルがスプリントを開始してから約50m後です。この画像を見ると、ポガチャルは既にサドルに腰を下ろしかけています。脚が止まりかけているのです。肩を揺らし、もう一度ペダルに立ち上がろうとしますが、再加速する力はありませんでした。

この時、スケルモースはポガチャルが切り開いた風穴を利用し、かつ自身もポガチャルより長く風を避けていたアドバンテージを最大限に活かしました。ゴールまであと数メートル、というギリギリまでタメたスケルモースが、わずか数センチ、ポガチャルをかわして勝利を手にしたのです。

王者の敗北が示すもの、そして次なる戦いへ

今回の タデイ・ポガチャル の敗北は、彼が「無敵ではない」ことを示したと同時に、いかにサイクルロードレースが複雑な戦術と、一瞬の判断、そして風のような自然の力に左右されるスポーツであるかを改めて教えてくれました。「なるほど！」と思いませんか？ 序盤の「熱狂的すぎる」アタックも、最後の「早すぎる」スプリントも、彼の勝利への渇望ゆえの行動でしょう。そのアグレッシブさこそが彼の魅力であり、多くのファンを惹きつける理由です。

しかし、今回は マティアス・スケルモース という、冷静かつ狡猾な若い才能が、その王者の隙を見逃しませんでした。 レムコ・エヴェネプール もまた、彼自身の戦略でレースを動かしました。この三つ巴の戦いは、今年のアルデンヌクラシック、そしてその後のグランツールに向けて、非常に興味深い伏線となりました。

この後、フレーシュ・ワロンヌ、そして レムコ・エヴェネプール との再戦が期待される リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ と、アルデンヌクラシックは続きます。今回の経験を経て、 タデイ・ポガチャル はどのように戦いを挑んでくるのか？ そして、新世代のホープ、 マティアス・スケルモース は、再び番狂わせを演じるのか？ 次のレースが待ちきれませんね！