モビスター監督「ジロで去年の成績改善」

ジロ・デ・イタリア：モビスター チームの「昨年超え」計画と、SDベラスコが語るチームの真意

皆さん、こんにちは。グランツール担当の山田健一です。イタリア、フランス、スペインと、ヨーロッパの主要レースを追いかける中で、私がいつも注目しているチームの一つにモビスター チームがあります。スペイン語圏のメディアとのネットワークを活かし、彼らの内部事情や戦略の機微を探るのは、私のライフワークと言ってもいいかもしれません。

さて、今まさに熱戦が繰り広げられているジロ・デ・イタリア。ピンクのジャージ「マリア・ローザ」を巡る戦いはもちろんですが、各チームがどんな戦略で、どんな選手を起用し、何を狙っているのか——その舞台裏を知ることは、レース観戦をより深く、面白くしてくれます。今回は、スペインの有力スポーツ紙MARCAが、モビスター チームのスポーツディレクター、イバン・ベラスコに行ったインタビューから、彼らの今大会にかける思いと「プラン」を読み解いていきましょう。

昨年の成功を越えるために

ジロの「グランデ・パルテンツァ」、つまり開幕地でベラスコSDに話を聞く機会を持ったMARCAの記者は、チームの序盤戦の感触を尋ねています。ベラスコSDは開口一番、「Aularで惜しいところまで行きました」と、好感触だったことを示唆しています。これは、チームの準備がしっかりできていたことの証でしょう。

特に若手選手たちの準備には手応えを感じているようです。「コロンビアで高地合宿を行った者もいれば、アルレニス・シエラ Nevadaで計画的なトレーニングを積んだ者もいる」とのこと。「昨年のように、いや、それ以上に物事をうまく運びたい」と、ベラスコSDは語気を強めていました。昨年、モビスターはペラヨ・サンチェスの劇的なステージ優勝など、記憶に残る活躍を見せました。今年はそれを上回る、という明確な目標を持っていることが分かります。

GCか、ステージか？ モビスターの二刀流戦略

モビスター チームの今大会の目標は、大きく分けて二つあるようです。一つは、エイネル・ルビオを総合上位に食い込ませること。「過去2回のジロで、彼はトップクラスに近い走りを見せている」とベラスコSDは評価しています。ただし、「彼の弱点はタイムトライアルと平坦ステージ」であることも認識しており、「最大限のサポートをするためにここにいる」と、チーム一丸でルビオを支える体制であることを強調しました。

そしてもう一つが、ステージ優勝を積極的に狙っていく「コンバティブ」な戦略です。ベラスコSDは「非常に戦闘的なチームを連れてきた」と語り、ヨン・バレネチェア、Orluis、Milesi、Cepeda、ナイロ・キンタナ、Formoloといった選手たちの名前を挙げ、「皆が逃げや山岳で輝き、チームを助けることができる」と期待を寄せています。GCエースを置きつつも、他の選手たちが自由に動いて勝利を狙う。これは、ポガチャル擁するUAEチームエミレーツ・XRGのような圧倒的なGCチームにはない、モビスターらしい戦い方と言えるでしょう。

新世代の台頭とベテランの復権

ベラスコSDが特に期待を寄せている若手の一人が、ヨン・バレネチェアです。「フランクフルトで表彰台に上がったばかりだ」と彼の最近の好調ぶりに触れ、「非常に総合力が高く、スピードもある。あらゆる地形に対応できる。ミドルマウンテンや少人数のグループでのステージで、我々に喜びをもたらしてくれるだろう。Orluisも同じだ」と評しています。若手の勢いがチームに活気を与えている様子が目に浮かびますね。

一方で、昨年のジロでチームのヒーローとなったペラヨ・サンチェスについては、少し状況が異なります。「数日前に彼と話したが、帯状疱疹から回復したものの、1ヶ月半休んでほぼプレシーズンのやり直しになった」とのこと。幸い後遺症はないそうですが、レース勘を取り戻すには時間が必要。「彼には焦らせない。年末には2024年のレベルに戻れると信じている」と、長期的な視点で見守る方針を示しました。

そして、ファンが最も注目している選手の一人、ナイロ・キンタナについても言及しています。「昨年はもっと苦しんでいたが、今年は調子が良い。コロンビアで非常に良い準備をしてきた。春のアレルギーの問題を避けるためだ。体重も絞れていて、良いコンディションで来ている。素晴らしいナイロが見られるだろう」と、ベラスコSDは自信をのぞかせました。過去にジロを制した経験を持つキンタナが、この舞台で再び輝きを取り戻せるのか。これは今大会の大きな見どころの一つです。

また、メンバー選考に関して、フェルナンド・ガビリアの不在についても説明がありました。「ガビリアが鎖骨の具合が良くないことは分かっていた。無理させるよりも、完全に回復させることを優先した」とのこと。彼のスプリント力は魅力ですが、ここは賢明な判断と言えるでしょう。Orluisやバレネチェアは以前からジロのメンバー候補だったようです。

目指すは「主役」

最後に、今大会を終えて何に満足するか、という問いに対して、ベラスコSDの答えは明確でした。「目標はエイネルをトップ8に入れること、そして毎日ステージ勝利を争うことだ」と繰り返し述べ、「重要なのは、チームが存在感を示すこと、レースにしっかり絡むことだ。我々は再び主役になりたい」と締めくくりました。

強力なライバルひしめくジロで、モビスター チームがどのように存在感を示していくのか。エイネル・ルビオは総合でどこまで食い込めるのか。ヨン・バレネチェアやナイロ・キンタナはステージ優勝を掴み取れるのか。ジロはまだ始まったばかり。チームブルーの「ゲリラ戦術」に、これからも目が離せません。