サミティエール、コフィディスで再起しジロへ挑む

セルヒオ・サミティエル、コフィディスで「生まれ変わった」男が狙うジロでの勝利：「ここでは一番バカでも時計を作るんだ」

イタリア語、フランス語、そしてスペイン語。グランツールの現場を駆け回る私にとって、現地の言葉は選手たちの本音を引き出すためのパスポートのようなものだ。今年のジロ・デ・イタリアで、私がスペインのスポーツ紙「MARCA」の特派員と話していると、ある選手の話題になった。それは、コフィディスに移籍して新たな道を歩み始めたセルヒオ・サミティエルだ。彼の口から出た言葉は、ユーモアに溢れつつも、この世界で生き抜くプロの厳しさを物語っていた。特に印象的だったのが、「ここでは一番バカでも時計を作るんだ（Aquí el más tonto hace relojes）」というフレーズだ。これはスペインの慣用句で、「誰もが非常に賢く、少しも油断できない」という意味合い。つまり、グランツールの集団には、見かけによらず狡猾で強い選手ばかりだ、という彼の率直な実感なのである。

コフィディスでの「再生」と新たな意欲

アラゴン出身、29歳のセルヒオ・サミティエルは、長年在籍したMovistarを離れ、今シーズンからコフィディスに加入した。この移籍が彼に何をもたらしたのか。彼はMARCAの取材に対し、「自信、ハングリー精神、そして主役になりたいという気持ちを取り戻させてくれた」と語っている。チームがジロ前の高地トレーニングを許可してくれたことにも深く感謝しており、「本当に感謝している。でも、それはレースで結果を出すことで返さなければならない。それが一番大事なことだから」と、プロとしての覚悟を見せた。

2020年のジロでは総合13位、そしてステージ6位という成績を残しているセルヒオ・サミティエル。決して派手な成績ではないかもしれないが、その堅実さは多くのファンが知るところだ。コフィディスという新たな環境で、彼は再び輝きを取り戻そうとしている。

落車を乗り越え、狙うは高山ステージの逃げ

今年のジロ開幕週、セルヒオ・サミティエルは不運にも落車に見舞われた。幸い大事には至らなかったものの、集団後方からの巻き返しを余儀なくされた。「ここでは足を引きずっている（不調な）やつは一人もいない。これはショーなんだ。そして僕たちは観客を楽しませるためにここにいる」と、落車前と同じ強い気持ちでレースに臨んでいる。

彼の狙いは明確だ。平坦ステージで無駄な力は使わない。彼の言葉を借りるなら、「平坦でバカなことはしない」。そして前述の「ここでは一番バカでも時計を作る」という言葉に繋がる。集団内の駆け引きがいかに熾烈であるか、そして彼はそこで消耗するのではなく、自身の得意とする高山ステージでの「火花が散るような逃げ」に全てを懸けたいのだ。「脚を温存するんだ。チェンテ（ビセンテ・ベルダ）がいつも言っていたようにね」と、スペインのサイクリストの間でよく使われる表現で戦術を語る。彼が夢見るのは、ジロでのステージ優勝。それはまだ手にしていないが、「確実に近づいている」と彼は感じている。

チームの「キラーモード」と国際化

セルヒオ・サミティエルは、コフィディスのチーム全体の雰囲気が非常に良いと感じているようだ。「コフィディスは『キラーモード』に入っている」と表現するほど、チーム全体が勝利に貪欲になっている。アレックスのような新戦力の加入がチームに活気をもたらし、さらにスペインのウェアメーカー、エステオンドの採用もモチベーション向上に繋がっているという。

チームの国際化も彼にとっては追い風だ。かつてはフランス語に苦労していたが、今はイタリア人コーチや英語でのコミュニケーションが増え、より快適になったと語る。以前、ゴルカ・イサギレも同様のことを言っていたのを思い出す。チーム内の多様性が、個々の選手のパフォーマンス向上にも繋がっている好例と言えるだろう。

ベテランの域へ、ジロで確固たる地位を

2020年ジロ総合13位、2019年ブエルタ・ア・エスパーニャ山岳賞3位、2021年ヴォルタ・ア・ポルトガル（ポルトガル一周）ステージ3位など、決して派手ではないが、着実にキャリアを積み上げてきたセルヒオ・サミティエル。彼は今、ベテランの域に差し掛かり、このジロに成熟した状態で臨んでいる。「僕たちは最高の人たちのようにトレーニングし、最高の人たちのようにケアしている...最高の人たちと一緒にいようとするんだ。まあ、今のところ、ここでは足を引きずっているやつは一人も見ていないけどね」と、再び皮肉を交えながら語る。

コフィディスとはあと2年の契約が残っている。この期間で、チームのキープレーヤーとしての地位を確固たるものにしたいと考えている。そして、そのための絶好の機会が、まさにこのジロ・デ・イタリアなのである。彼の「生まれ変わった」走りが、ピンク色のジャージを巡る戦いに新たな彩りを加えてくれることを期待したい。