リチャル・カラパス選手

リチャル・カラパスが語るジロ終盤戦の展望：「高地こそが私の領域、過酷な一週間が待っている」

今年のジロ・デ・イタリアもいよいよ佳境。最後の休息日を終え、選手たちはコルサ・ローザのクライマックス、悪魔的な山岳ステージへと挑みます。そんな緊迫した空気の中、私はエクアドルの英雄、リチャル・カラパス（EF Pro Cycling Team）に話を聞く機会を得ました。彼の表情には、高地で育った者だけが持つ静かな自信と、ベテランならではの冷静な分析力が宿っていました。「高地こそが私の領域だ。これからの一週間は、誰にとっても非常に厳しいものになるだろう」――そう語る彼の言葉には、ジロ総合優勝への揺るぎない決意と、ライバルたちへの明確なメッセージが込められていたのです。

「高地こそが私の領域」：カラパスの強さの源泉

31歳のリチャル・カラパスは、今シーズンのジロ・デ・イタリアで再び総合優勝争いに絡むべく、虎視眈々とその機会を伺っています。最後の休息日、スペインのスポーツ紙マルカのインタビューに応じた彼は、終盤戦への自信をこう語りました。「この休息日は、私たちにとって非常に有益でした。なぜなら、これから待ち受けるステージは、まさに究極の挑戦となるからです。22,000mを超える獲得標高が選手たちを待ち受けている。チームとして常に前線にいることが、何よりも重要になるでしょう。」

彼の自信の根源は、その独特の準備過程にあります。ヨーロッパでのレースを消化した後、彼は母国エクアドルへと戻り、高地での集中トレーニングを行いました。「私は高地で育った人間です。そこで力をつけ、成長してきた。高地は私の自然な生息地、まさにホームグラウンドなのです」と、その言葉には高地への絶対的な信頼が滲み出ていました。アンデス山脈の厳しい環境が彼を鍛え上げ、グランツール終盤の過酷な山岳で真価を発揮する能力を授けたのでしょう。高地出身の選手がグランツールで強さを見せるのは、決して偶然ではありません。彼らは酸素の薄い環境下での持久力と回復力に秀でていることが多く、まさしくカラパスは、その典型と言えるでしょう。

EF Pro Cycling Teamの戦略とライバルUAEへの視線

カラパスは、チームとしての連携の重要性も強調しました。EF Pro Cycling Teamは、彼を総合エースとして支えるべく、これまでも献身的な走りを見せてきました。残る山岳ステージでは、チームメイトたちのサポートが、彼の勝利への道筋を大きく左右するでしょう。彼らは集団内でカラパスを常に有利な位置に置き、アタックのタイミングを見計らい、そして最後は彼にすべてを託す。その信頼関係が、チームの強さの源泉であることは間違いありません。

そして、現在のレースを支配するライバル、UAEチームへの評価も忘れませんでした。「UAEの選手たちは非常に強力で、これまでのレースを完璧にコントロールしてきました。特にイサーク・デルトロ Toroとフアン・アユソは素晴らしい走りを見せている」と、その強さを認めつつも、カラパスはこう付け加えました。「しかし、ここからが本当の戦いです。彼らがこの過酷な終盤戦で、どこまでその支配力を維持できるか。まだ何が起こるか分かりませんよ」。この言葉の裏には、疲労が蓄積し、真の力が試される最後の数ステージで、状況をひっくり返すチャンスがあると見ている彼の戦術眼が垣間見えます。グランツールでは、最終週にドラマが生まれることは珍しくありません。まさしく、ここからが「ジロが本当に厳しくなる」瞬間なのです。

勝利への執念とキャリアの選択

総合優勝への可能性について問われると、カラパスは迷わず「はい、もちろんです。そのために全力を尽くします」と力強く答えました。その瞳には、かつて2019年のジロを制したチャンピオンの輝きが宿っていました。彼はまた、機材に対する考え方の変化についても言及しています。「以前はポテンショメーターなしで走るのが好きでしたが、今ではそのデータがパフォーマンス向上に大きく貢献すると感じています」と語る彼の言葉からは、時代の変化に柔軟に対応し、常に最高の状態を追求するプロフェッショナリズムが感じられます。

彼のキャリアにおける最も輝かしい瞬間を問う質問には、2019年のジロ優勝と東京2020オリンピックの金メダルを比較し、「東京」と即答しました。グランツールの総合優勝も素晴らしい偉業ですが、オリンピックの金メダルは、国を背負って戦う選手にとって、また格別の重みがあるのでしょう。彼の言葉の端々から、エクアドル代表としての誇り、そして再び母国のために走りたいという強い思いが伝わってきます。「エクアドル代表として再び走りたい気持ちはあります。連盟の選挙次第ですが、私は最も多くのポイントを獲得してきましたからね」。彼がライバルと認める選手として、PogacarやVingegaardではなく、落車で苦しんだRoglicの名前を挙げたのも、彼が真にリスペクトする相手が誰なのかを物語っているようです。

そして、ジロ・デ・イタリアへの特別な感情を問われた時、彼はこう締めくくりました。「再びジロで勝つことは、私がこのスポーツに恋した理由を思い出させてくれる」。この言葉は、単なるレースへの意気込みを超え、彼自身のサイクルロードレースへの純粋な情熱と、コルサ・ローザが彼にとってどれほど大切な存在であるかを物語っています。

最後の山岳が語るドラマ

いよいよジロ・デ・イタリアは、サン・ヴァレンティーノのような「タッポーネ・アルピーノ」（アルプスの巨大な山岳ステージ）と呼ばれる難関ステージが待ち受ける最終局面へと突入します。疲労困憊の選手たちを襲うのは、酸素の薄い高地と、容赦ない急勾配の連続です。こうした環境で、リチャル・カラパスのような高地適応能力に長けた選手が、その真価を発揮する可能性は非常に高いでしょう。UAEチームの支配体制が盤石に見えても、グランツールは最後の最後まで何が起こるか分かりません。過去のジロでも、最終週に総合順位が大きく変動するドラマが数多く生まれてきました。果たして、カラパスは再びピンクジャージに袖を通すことができるのか。それとも、UAEチームがその牙城を守り切るのか。日本のサイクルロードレースファンの皆さんも、このピンク色の祭典の結末から、一瞬たりとも目を離さないでください。この過酷な一週間が、きっと新たな伝説を生み出すはずです。