ジロ・デ・イタリア

激動の最終週へ：ジロ・デ・イタリア、真の勝負が始まる

長かったジロ・デ・イタリアも、いよいよ最終局面。ここまで熾烈な総合争いが繰り広げられてきましたが、いよいよ「真の勝負」が始まります。残された4つの山岳ステージは、どれも標高4000m級の峠を擁する、まさに“サルヴァージョ（野獣的）”なコースばかり。脚の消耗はピークに達し、精神力も限界に近づくこのタイミングで、選手たちは自らの全てを出し尽くすことを強いられます。

特に注目すべきは、チーム内の力学が複雑に絡み合うUAEチームエミレーツの状況でしょう。彼らは現時点でマリアローザを擁していますが、その内情は決して一枚岩ではありません。この最終週が、今年のジロの行方を、そして彼らのチーム戦略の成否を決定づけることになります。

UAEチームエミレーツの葛藤：デルトロの勢いとアユソの苦悩

現在、ピンクのジャージを身にまとうのは、若き新星イサーク・デルトロ。彼がマリアローザを着てから一週間が経ち、その表情には確かな自信と喜びが満ち溢れています。「日曜日のステージで脚があることを証明できた。それが自信になっている」と語る彼の言葉からは、未知の領域であるグランツールの最終週を前にした、高揚感と覚悟がひしひしと伝わってきます。

しかし、チームの公式なリーダーはあくまでフアン・アユソであるという状況が、このチームを巡る最大のドラマを生み出しています。デルトロが脚光を浴びる一方で、アユソは沈黙を守り、単独でトレーニングに励む姿が目撃されています。現地メディアの間では、「デルトロが失速しない限り、アユソはアタックできないのではないか？」という憶測が飛び交っています。チームは「フアン・アユソがリーダーだ」という方針を崩していませんが、マリアローザを着用するイサーク・デルトロの勢いは、チームのコントロールを超えつつあるようにも見えます。チームディレクターのファビオ・バルダートやマティシンが、彼を支えながらも、この微妙なバランスをどう保っていくのか、その手腕が問われています。

アユソを襲う不運の連鎖：それでも彼は諦めない

フアン・アユソは、このジロで実に多くの不運に見舞われてきました。アルバニアでの初ステージでの落車に始まり、ストラーデ・ビアンケを思わせる未舗装路（グラベル）区間での転倒、そして膝の負傷。この傷は、縫合された後も痛みを伴い、彼を苦しめ続けているのです。

さらに、ピサでの個人タイムトライアルでは、イサーク・デルトロも同様でしたが、集中豪雨に見舞われました。乾いた中間地点ではログリッチにタイムを詰め寄る走りを見せたものの、ピサ市街への入り口では土砂降りに阻まれ、ブレーキングを強いられる場面も。「そうだったのか！」と驚くべきは、スロベニアの山岳ステージでの機材トラブルです。落車したボトルを踏んでしまい、なんとフレームのトップチューブを破損するというアクシデントに見舞われました。テレビ中継ではチームメイトからのアシストが遅れているように見えましたが、チーム側は「状況はコントロールされており、チームはペースを上げて待っていた」と説明しています。

度重なる不運に見舞われながらも、フアン・アユソは静かに、しかし確実に牙を研いでいるはずです。デルトロが奇跡的に落車やパンクを回避しているのとは対照的に、「もうこれ以上、不運は勘弁してほしい」とでも言いたげな彼の表情からは、並々ならぬ執念が感じられます。

アルプスの試練：真のリーダーは誰か？

これからの山岳ステージは、まさに「タッポーネ（巨大なステージ）」と呼ぶにふさわしい、過酷なものばかりです。サン・ヴァレンティーノ峠が最初の審判となるでしょう。このイタリアのアルプスが、イサーク・デルトロの勢いを維持させるのか、それともフアン・アユソに逆転のチャンスを与えるのか。

ベルナルやログリッチといったライバルたちも、このUAEチームエミレーツの内部状況を虎視眈々と見守っていることでしょう。彼らにとって、このチーム内の複雑な力学は、つけ入る隙となる可能性を秘めています。果たして、フアン・アユソは、チームの公式リーダーとしての立場を取り戻し、総合優勝へ向けて動き出すことができるのか。それとも、イサーク・デルトロがマリアローザを死守し、歴史的な番狂わせを演じるのか。

この最終週は、選手たちの肉体的な限界だけでなく、チーム内の人間ドラマも最高潮に達する、まさに目が離せない展開となるでしょう。日本のファンの皆さん、「なるほど！」と唸るような戦術の駆け引き、「へぇ～」と感嘆するような若手の台頭、そして「確かに！」と共感する選手たちの葛藤が、これからの数日間で次々と生まれてくるはずです。私も現地で、その全てを肌で感じ取り、皆さんにお届けできるよう努めます。次もぜひ、私のレポートに耳を傾けてください。