ファン・デル・プール、カルペで調整：ツールとMTB世界選手権に照準

鋼の肉体を鍛える「キッチン」再開

今年の春、ロードレース界を文字通り席巻した男、マチュー・ファンデルプール der Poel。ミラノ〜サンレモ、E3サクソクラシック、そしてパリ〜ルーベと、立て続けにビッグタイトルを獲得するその走りは、まさに圧倒的でした。石畳のレースでの彼の強さは、もはや常識を超えているとさえ感じます。

そんな彼が、次の大きな目標として定めているのが、ツール・ド・フランスとMTB世界選手権です。ロードの最高峰と、オフロードの頂点。この二つを同じ年に狙うというのですから、彼の野心には本当に驚かされます。

そのための準備として、彼が選んだ場所は、スペインのコスタ・ブランカ地方、カルペでした。多くのプロ選手がオフシーズンのトレーニング拠点とするこの地で、彼は再び「キッチン」を開いたようです。「キッチン」というのは、サイクリストの間で使われる隠語で、極限まで追い込むような厳しいトレーニングのことを指します。「クックド（cooked）」、つまり「茹で上がった」「完全に疲労困憊した」状態になるまで追い込むことから、「キッチン」で料理される、というわけですね。彼のインスタグラムに「Kitchen reopened」と投稿されていたのを見て、「ああ、いよいよ本格的な地獄のトレーニングが始まったな」とニヤリとしてしまいました。

コスタ・ブランカでの過酷なセッション

カルペ周辺は、海岸線沿いの平坦路から内陸に入ればすぐに起伏に富んだ山岳地帯が広がる、ロードトレーニングには最適な環境です。マチュー・ファンデルプール der Poelは、トレーニングパートナーであるフレディ・オヴェットと共に、この地で連日ハードなメニューを消化しています。

Stravaで公開されている彼の、あるいはフレディ・オヴェットのアクティビティを見ると、その強度が尋常でないことが分かります。ある日のトレーニングは、走行距離200キロメートル、獲得標高差は3000メートル近くにも達したそうです。フレディ・オヴェットはこのセッションに「ダブル・パークド（Double parked）」と名付けていました。これはスラングで「完全に打ちのめされた」といったニュアンスでしょうか。いかにハードだったかが伝わってきますね。

また別の日には、VO2マックスを極限まで高めるようなインターバルセッションを行ったようです。フレディ・オヴェットは、その苦しさを表現するために、サイモン＆ガーファンクルの名曲にかけて「ハロー・ダークネス・マイ・オールド・フレンド（Hello darkness my old friend）」とタイトルを付けていました。これはもう、トレーニングというよりは、自分自身の限界との孤独な戦いである、ということでしょう。こうした言葉の選び方からも、彼らのトレーニングの厳しさがひしひしと伝わってきます。

ロードとMTB、二刀流の野望

マチュー・ファンデルプール der Poelという選手は、本当に稀有な存在です。シクロクロス、ロード、そしてMTB。どのカテゴリーにおいても世界のトップクラスで戦える、文字通りのマルチタレント。特に、ロードの春のクラシックで圧倒的な強さを見せた直後に、MTBの世界選手権を本気で狙うというのは、常人には考えられないことです。

彼は5月18日にドイツのホイバッハで開催されるMTBのレースで実戦復帰する予定です。ここからMTBの感覚を取り戻し、9月14日にクランス・モンタナで行われるMTB世界選手権でのタイトル獲得を目指します。そしてその間に、ツール・ド・フランスにも参戦する意向を明らかにしています。

ツール・ド・フランスでは、総合争いではなくステージ優勝やマイヨ・ヴェール（ポイント賞）を狙うことになるでしょうが、彼がツールという舞台でどんな走りを見せるのか、今から楽しみで仕方ありません。MTB世界選手権という別の目標を抱えながら、ツールでどこまでやれるのか。そして、ツールでの疲労を抱えながら、MTB世界選手権で最高のパフォーマンスを発揮できるのか。彼の挑戦は、常に私たちの想像を超えてきます。

今後の「怪物」から目が離せない

カルペでの「キッチン」で鋼のように鍛えられた肉体と精神で、マチュー・ファンデルプール der Poelがこの夏、そして秋にどんな伝説を作り上げるのか。ツールでのサプライズ、そしてMTB世界選手権での二冠達成なるか。彼の動向から、須臾たりとも目が離せません。日本のサイクルロードレースファンの皆さんも、ぜひ彼の挑戦に注目してください！