トロンション、天の恵みを受ける

悪夢のようなブルターニュの洗礼

レースが始まる前から、ランニリスの空は鉛色。スタート地点では、地元の司祭様や信者の方々が見守る中、まるで今日のレースの運命を予言するかのように、雨が降り始めました。それがね、ただの雨じゃないんです。「拳大のしずく」なんて表現が記事にはありましたが、本当にそんな感じ。地面はあっという間に泥濘と化し、特にトロ・ブロ・レオン名物の未舗装区間「リバン」は、文字通り「大洗濯機」状態！

グルヴァン湾に面したリバン19番、通称「砂漠」では、観客の方が水かさが増す路面を必死に手や枝で掃き出そうとしていたそうです。想像できますか？もう、バケツで水を汲み出すようなもんですよ！それほどまでに水浸しで、車やバイクまでスタックする始末。選手たちはこの泥と水のメラーサ（糖蜜のようなベタベタした状態）の中を走らなければならない。これはもう、サバイバルレース以外の何物でもありませんでした。

スタート直後から空は選手たちに容赦なく水を浴びせかけ、レースはあっという間に「壮絶な殺戮」と化しました。ケヴィン・ヴォークラン、ライリー・シーアン、ヴァランタン・マドゥアス、フレドリク・ドゥヴァーシュネスといった有力選手たちが、最後の20kmでアタックを仕掛けては、落車したり、パンクしたり、ディレイラーが泥で詰まったりと、次々に不運に見舞われていく。まるで、勝利に手を伸ばした者を、目に見えない何かが引きずり下ろしているかのようでした。

トラブル連発！それでも折れない心

そんな「ロト」のようなレースの中で、ただ一人、運命に逆らい続けた男がいました。それが、Décathlon-デカトロン・AG2Rラモンディアール チームのバスティアン・トロンションです。彼もまた、最初から順調だったわけではありません。むしろ、序盤は「ずっと不運だった」と記事には書かれています。

極めつけは、レース終盤の161km地点、ケラドラオンのリバン入口での出来事。彼は、コースを間違えてしまったんです！リバンへの道が二手に分かれていて、案内係がいなかった。彼は残念ながら、違う方へ進んでしまった。「でも、僕は落ち着いていた」と彼は振り返ります。

コースに戻ってからも、彼の不運は続きました。なんと、パンクを2度も喫したんです！悪天候と泥のリバンでは、パンクはつきものとはいえ、2度もとなると、普通の選手なら心が折れてもおかしくありません。60km地点から果敢なアタックを見せていただけに、これで万事休すか…と誰もが思ったでしょう。

しかし、バスティアン・トロンションは違いました。彼はトラブルに見舞われても、決して諦めなかった。彼のスポーツディレクター、ニコラ・ギリエも「自転車の上で非常に巧みだ」と称賛するように、彼はこの過酷なコンディションをむしろ味方につけているかのようでした。リバンの中では、タイヤが半分も泥に埋まるような場所もあったというのに、彼は突き進んだのです。

チームメイトとの共闘、そして勝利へ

まさに絶体絶命と思われたバスティアン・トロンションですが、驚異的な粘りを見せ、なんと先頭集団に追いつきます。そこには、チームメイトのピエール・ゴーテラがいました。そして、長い間単独で逃げていたフレドリク・ドゥヴァーシュネスも。しかし、ドゥヴァーシュネスもまた、トロ・ブロ・レオンの「大鎌」に捕まり、ゴールまで残り1kmのロータリーで落車！

これで先頭に残ったのは、バスティアン・トロンションとピエール・ゴーテラのDécathlon-デカトロン・AG2Rラモンディアール チームの2人。後ろからは、地元出身のヴァランタン・マドゥアスとアントニー・テュルジスが猛追してきます。マドゥアスはこのレース初出場だったそうですが、地元の声援を受けて力走していました。

しかし、悪天候とリバンで消耗しきった彼らは、Décathlonのデュオに追いつくことはできませんでした。バスティアン・トロンションとピエール・ゴーテラは、文字通り肩を並べるように、あるいは少しトロンションが先行する形で、共にゴールラインを駆け抜けました。

2位に入ったピエール・ゴーテラは、顔の泥を拭きながら「こんなクレイジーなレースは初めてだ」「まるでハエのように選手が落ちていくのを見て、常に距離をとっていた」と語っています。完走者わずか数名という壮絶な消耗戦の中、チームメイトと共にワンツーフィニッシュを飾れたことは、彼らにとっても特別な瞬間だったに違いありません。

感情溢れる勝利の裏側

ゴール後、バスティアン・トロンションは感情を抑えきれませんでした。ヘルメットを脱ぎ、胸を叩き、そして目に涙を浮かべながら、彼は勝利の喜びと、これまでの苦悩を吐き出しました。ゴールラインを越える時に頭を指差すジェスチャーをしたことについて、「多くの人が...（声が震える）...僕はできると、高く、遠くを目指せると、自分が強いと知っていた。でも、レースでそれを表現できなかったんだ。今日、それが報われた」と語っています。

24歳の彼にとって、ここ数ヶ月は困難な時期だったと言います。前日にプリュムレックで勝利したブノワ・コスヌフロワもまた、感情を爆発させていましたが、彼らのような若手選手が苦境を乗り越えて掴む勝利には、特別な重みがあります。

彼のスポーツディレクター、ニコラ・ギリエは、彼の「性格」を称賛しました。「タフなアルデンヌクラシックを経験し、少し道を外れたこともあった。諦めてもおかしくなかったが、彼は本当に度胸がある。昨日（土曜日）、彼とブリーフィングをした時、『ニコ、脚の調子は最高だ、先行したい、前に出たい』と言っていた。彼はほとんど勝つことを知っていたんだ」。

まるで、この泥濘と雨のレースが、彼のために描かれた舞台であるかのように。空が荒れ狂い、激しい雨が降り注ぎ、そして最後に一人だけが残る。そんな過酷な状況でこそ輝くバスティアン・トロンション。コース間違いも、パンクも、全てはドラマの伏線だったのかもしれません。

この勝利は、彼にとって大きな自信となるはずです。そして、私たちファンにとっても、困難に立ち向かうことの尊さ、そして努力が報われる瞬間の美しさを改めて教えてくれる、感動的な一幕となりました。今後のバスティアン・トロンションの活躍から、ますます目が離せませんね！