フェラン＝プレヴォはやりすぎているのか？

ポーリーヌ・フェラン＝プレヴォ、その戦略は「やりすぎ」なのか？ アルデンヌへ向かう女子プロトンに見るツール・ド・フランスへの視線

パリ〜ルーベを制した女王の選択。回復か、連戦か。それぞれの思惑が交錯するクラシック終盤戦。

クラシックシーズンの熱狂も終盤に差し掛かり、フランドルからアルデンヌへと戦いの舞台が移りゆくこの時期。男子レースはもちろん注目ですが、女子プロトンの動向も非常に興味深い。特に、パリ〜ルーベで圧巻の勝利を飾ったポールーヌ・フェラン＝プレヴォ（ヴィスマ・リースアバイク）が、続くレース選択でどのような判断を下すのか、多くのファンが固唾を飲んで見守っています。彼女自身が口にした「ツール・ド・フランスでダメだったら…」という言葉の裏には、今シーズンの戦い方、そして夏のビッグイベントへの複雑な思いが垣間見えます。一方、デミ ボディネ・フォレリング（FDJ-Suez）のようなツール・ド・フランス優勝候補は、この時期に敢えて一呼吸置く戦略を選択しており、トップ選手たちの間で異なるアプローチが見られるのです。この戦略の分かれ道、一体どのような意味を持つのでしょうか。

クラシック終盤からアルデンヌへ、戦略の分かれ道

フランドル系の石畳や急坂を乗り越え、いよいよリエージュ・バストーニュ・リエージュへと続くアルデンヌクラシックの季節がやってきました。この移行期は、選手たちにとって非常にデリデリケートな時期です。パリ〜ルーベやツール・ド・フランドルで全力を出し切った選手もいれば、より標高の高いレースや夏のグランツールを見据えて調整を進める選手もいます。ポールーヌ・フェラン＝プレヴォや、世界チャンピオンのロッテ・コペッキー（SDワークス・プロサイクリング）といった選手は、春先の勢いを維持しつつ、このアルデンヌでも結果を狙おうとしています。その一方で、2023年のツール・ド・フランス覇者であるデミ ボディネ・フォレリングをはじめ、エリーザ・ロンゴボルギーニ（リドル・トレック）、ガイア・レアリーニ（Lidl-Trek）、パウリーナ・ローイヤッカース（Canyon//SRAM Racing）といった、夏のツール・ド・フランスで表彰台、あるいは勝利を目指すであろう選手たちが、この週末のフレッシュ・ブラバンソンヌやアムステル・ゴールドレースで戦線に復帰してきました。まさに、それぞれの目標に向けた戦略が色濃く反映される時期と言えるでしょう。

フェラン＝プレヴォの葛藤と怪我の影響

パリ〜ルーベでの歴史的な勝利は、ポールーヌ・フェラン＝プレヴォのキャリアにおいて間違いなくハイライトの一つです。しかし、その栄光の裏で、彼女は怪我に苦しんでいます。ストラーデ・ビアンケで負った足首の怪我が、どうも長引いているようなのです。この影響もあり、彼女はフレッシュ・ブラバンソンヌへの出場を見送り、週末のアムステル・ゴールドレースへの参加も直前まで明言を避けていました。「回復状況を見て判断する」という彼女の言葉には、万全のコンディションでレースに臨みたいというプロアスリートとしての矜持と、それでもレースに出たいという勝利への渇望、そして何よりも、夏に照準を合わせているツール・ド・フランスへの影響を最大限に避けたいという複雑な思いが滲んでいました。パリ〜ルーベ前にも体調が万全でなかったことを明かしており、それでも勝利を掴んだ彼女だからこそ、この時期の体の声に耳を傾けることの重要性を痛感しているのではないでしょうか。

FDJ-Suezが見せる「長期戦略」

対照的に、デミ ボディネ・フォレリングが所属するFDJ-Suezは、明確な長期戦略に基づいて選手のスケジュールを組んでいます。チームのパフォーマンスディレクターであるFlavien Soenen氏は、「選手の長期的なキャリアを考え、無理な連戦を避けること、そしてパフォーマンスを持続させるために、時には準備期間を優先することが必要だ」と語っています。デミ ボディネ・フォレリングやエヴィータ・ムジック、ジュリエット・ラブースといった選手たちは、この春のクラシック序盤を控えめに過ごし、先日までカナリア諸島での3週間に及ぶ高地合宿を行ってきました。過去には、デミ ボディネ・フォレリングがツール・ド・フランドルからツール・ド・ペイ・バスクまで、5月中旬までレースを連戦し、それでも高いパフォーマンスを維持した例もあるそうですが、今年はアプローチを変えているのです。これは、昨年のツール・ド・フランス覇者という立場を踏まえ、より確実に夏のピークに照準を合わせるための、チームとしての周到な計画の表れと言えるでしょう。

ツール・ド・フランスへの視点

ポールーヌ・フェラン＝プレヴォが口にした「もしこの夏のツール・ド・フランスでダメだったら、これらのクラシックには出ずに、もっと長い高地合宿をすべきだったということになるかもしれません」という言葉は、彼女が今シーズン全体を「学習」の過程と捉えていることを示唆しています。特に、マウンテンバイクやシクロクロスでの輝かしいキャリアを持つ彼女にとって、ロードレース、そしてツール・ド・フランスという全く異なるフォーマットでのピーク設定は、試行錯誤の連続なのかもしれません。しかし、FDJ-SuezのSoenen氏は、この時期のレース選択が夏のツール・ド・フランスに決定的な影響を与えるわけではない、という冷静な見方を示しています。「夏に向けて、改めて準備期間を設定することは十分に可能だ。ロッテ・コペッキー、エリーザ・ロンゴボルギーニ、ポールーヌ・フェラン＝プレヴォ、そしてデミ ボディネ・フォレリング、それぞれの戦略は違えど、それがツールでのパフォーマンスに劇的な差を生むとは限らない」と。つまり、この春のクラシックはあくまで通過点であり、最終的な目標は夏のツールにある。そのために、選手もチームも、それぞれの考えうる最善の道を選んでいる、ということなのでしょう。

アルデンヌクラシックは、女子レースにおいても非常に権威のあるレースですが、同時に夏のビッグイベントに向けた重要なステップでもあります。ポールーヌ・フェラン＝プレヴォが怪我を乗り越え、アムステル・ゴールドレースでどのような走りを見せるのか。そして、デミ ボディネ・フォレリングら「ツール仕様」に調整してきた選手たちが、ここでどのような仕上がりを見せるのか。それぞれの戦略が、夏のツール・ド・フランスでどのように結実するのか、今から楽しみでなりませんね。