今日のジロ・デ・イタリア

ジロ・デ・イタリア、束の間の静寂。最終週へ向かう嵐の前の休息日

5月26日の月曜日、ジロ・デ・イタリアのコース上には、選手たちの姿はありませんでした。そう、この日は多くのグランツール同様に、**レースの骨子をなす重要な「休養日」**だったのです。単なる休憩と思うなかれ、この一日が最終週のドラマを大きく左右すると言っても過言ではありません。前日の激闘の興奮が冷めやらぬ中、選手たちは肉体を癒し、チームは戦略を練り直す。まさに嵐の前の静けさ、といったところでしょうか。

イサーク・デルトロ Toroがフィウーメ・ヴェーネトからアジアーゴへのステージを走る様子。

なぜ今日、ジロは休養日なのか？

グランツールにおける休養日は、単なる疲労回復のための日ではありません。それは、選手たちがこれまでの激戦で消耗したエネルギーを回復させ、同時にチームが今後の戦略を再構築するための**「戦略的ポーズ」**です。特にジロのような過酷なレースでは、肉体的な疲労はもちろんのこと、精神的な疲弊も蓄積されます。この休養日を挟むことで、選手たちは心身をリセットし、最終週へと向かうエネルギーをチャージする。

また、チームにとっても重要な意味を持ちます。これまでのステージで得られたデータや、ライバルチームの動向を詳細に分析し、残りの数日間でどこに勝機を見出すか、総合優勝を狙う選手のためにどう動くかといった、綿密な計画が練られるのです。現地メディアでは、この休養日を「サイレンス・オブ・ジ・アタック（攻撃の沈黙）」と表現することもあります。選手たちは表舞台から姿を消しますが、その裏では、次のステージに向けた激しい心理戦が繰り広げられているのですね。

カルロス・ベローナの輝きと、ログリッチの苦悩

休養日に入る前、日曜日の第15ステージは、まさに手に汗握る展開でした。フィウーメ・ヴェーネトからアジアーゴまでの219km、獲得標高約4,000mという山岳ステージで、主役の座を射止めたのは、Lidl-Trekのカルロス・ベローナでした。彼はドーリの登りでアタックし、残り41kmからの独走劇を敢行。並み居る追走集団の猛追を振り切り、見事なソロ勝利を飾りました。彼の表情には、キャリア最高の勝利を手にした喜びと、出し尽くした疲労が入り混じっていましたね。まさに、この日のヒーローでした。

しかし、このステージは、総合争いの行方にも大きな影響を与えました。特に、プリモシュ・ログリッチにとっては、まさに「苦難の一日」となってしまったのです。彼は集団から遅れ、フィニッシュでは1分30秒以上のタイムを失いました。現地で取材していた私も、彼の表情から尋常ではない疲労を感じ取りました。

このログリッチの失速を嗅ぎつけたUAEチームエミレーツ・XRGは、すかさず集団のペースを上げ、ログリッチをさらに追い詰めます。カラパス、アユソ、イサーク・デルトロ、ベルナルといった総合上位を狙う選手たちが一斉に加速したことで、ログリッチとの差は決定的なものとなり、総合争いの行方は一気に混沌としてきました。このUAEチームエミレーツ・XRGの動きは、まさに「ここぞ」とばかりの嗅覚の鋭さであり、チーム内の連携の強さがうかがえました。

最終週へ向けた戦術と展望

そして迎える火曜日、5月27日。ジロは再び動き出します。第16ステージは、ピアッツォーラ・スル・ブレンタからサン・ヴァレンティーノ（ブレンティーコ）までの203km。獲得標高は驚異の4,900mを誇り、5つの山岳が選手たちを待ち受けます。特に「サンタ・バルバラ峠」は平均勾配9%の13kmという難所で、その後のサン・ヴァレンティーノのフィニッシュも、ラスト300mで12%の激坂が立ちはだかる、まさに「壁」のような登りです。

このステージは、総合順位を大きく動かす可能性を秘めています。ログリッチがどれだけ回復しているのか、UAEチームエミレーツ・XRGはさらに攻勢をかけるのか、はたまた他のチームが奇襲を仕掛けてくるのか。休養日を挟んだことで、選手たちのコンディションやチームの戦術がどう変化するのか、非常に興味深いところです。

このジロ・デ・イタリアもいよいよ最終週。総合優勝の「マリア・ローザ」を巡る戦いは、ここからが本当の佳境を迎えます。予想だにしなかった展開が、きっと私たちを待ち受けていることでしょう。果たして、ピンクのジャージは誰の手に渡るのか？ 次のステージも、皆さんと一緒に固唾を飲んで見守りたいと思います！