またしても不運、ログリッチが週末の最大の敗者に

【松崎 愛のジロ分析】ログリッチ、波乱のグラベルで失速…総合争いは混沌へ

自転車ロードレースを愛する皆さん、こんにちは！ジャーナリストの松崎 愛です。世界中のレースをリアルタイムで追いかける私の目を通して、イタリア、ジロ・デ・イタリアの最新情報をお届けしますね。

今年のジロは、序盤からプリモシュ・ログリッチ選手（レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ）がその存在感を見せつけてきました。アルバニアでの開幕以来、総合リーダージャージであるマリア・ローザを意図的に手放すという、なんとも彼らしい戦略的な動きも見せ、まるで全てをコントロールしているかのように見えたのです。しかし、日曜日のステージは、そんなログリッチ選手にとって、まさに悪夢のような一日となってしまいました。

ストラーデ・ビアンケを彷彿とさせる難関ステージ

この日のステージは、イタリア中部の美しいシエーナへと向かうものでした。コースには、あの「ストラーデ・ビアンケ」でもお馴染みの未舗装路、通称「グラベル」のセクターが組み込まれており、選手たちにとっては機材への負担も大きく、常に落車のリスクがつきまとう非常にテクニカルなレイアウトでした。

レースがグラベルセクターに突入すると、やはり波乱が起きました。2つ目のグラベルセクターで、なんとログリッチ選手が落車！しかも、この日有力視されていたトム・ピドコック選手も巻き込まれる形でした。グラベルでの落車は、舗装路とは違い、体へのダメージも大きく、再スタートにも時間がかかります。さらに不運は重なり、ログリッチ選手はパンクにも見舞われてしまったのです。

懸命な追走、しかしライバルたちは加速

落車とパンクでタイムを失ったログリッチ選手は、そこから約50kmにわたって、前を追う過酷な単独走を強いられました。彼のメンタルの強さ、そして諦めない走りは本当に素晴らしいのですが、自転車レースはチームスポーツでもあります。

前方のメイン集団では、イネオス勢がペースを上げ、それにワウト・ファンアールト選手らが追従。さらにその先には、フアン・アユソ選手、リチャル・カラパス選手、ジュリオ・チッコーネ選手、アントニオ・ティベーリ選手、サイモン・イェーツ選手といった、今大会の総合上位を狙う強力なライバルたちがひしめいていました。彼らはログリッチ選手の不運を尻目に、容赦なくペースを上げていったのです。「待ってくれない」、それがレースの現実。懸命な追走も虚しく、ログリッチ選手は彼らとの差を詰めることができませんでした。

総合10位へ後退、ログリッチの胸中

シエーナのフィニッシュラインを通過した時、ログリッチ選手のタイムロスは1分を超えていました。この結果、開幕から総合上位をキープしていた彼の順位は、一気に7つも下がり、フアン・アユソ選手から1分12秒遅れの総合10位となってしまったのです。

レース後、腿から血を流しながらインタビューに応じるログリッチ選手の姿は、なんとも痛々しいものでした。彼の言葉からは、この日の苦労と、それでもステージを走りきった安堵、そして複雑な心境が伝わってきました。「このステージを終えられて、それでも嬉しいよ」と彼は語り始めました。「本当に大変な一日だった。前は速かったから、こちらも高いペースを維持しなきゃならなかったんだ」。

総合順位を大きく落としたことについて問われると、「今日は1分失った。これが今後どう影響するかは分からないね。ローマでの最終日まで、まだまだ長い道のりがある。多くのことが起こりうるだろう」と冷静に分析。「いつも勝てるわけじゃない。負けを知ることも必要だ」。そして、最も心配している様子だったのが、自身の怪我についてでした。「今夜（日曜日）全てチェックして、回復に努めるよ」。その言葉の端々から、彼のプロフェッショナリズムと同時に、人間らしい苦悩が垣間見えました。

チーム力の課題と今後のジロ

今回のログリッチ選手の失速劇を見て、SNSなどでは「レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのチーム力が弱いのではないか？」という声も散見されます。確かに、強力なライバルチームに囲まれるグランツールにおいて、チームによるサポートは生命線。ログリッチ選手が単独で追走せざるを得なかった状況は、チームとしての課題を浮き彫りにしたのかもしれません。

幸い、翌日は休息日です。ログリッチ選手にとっては、この日失った肉体的・精神的なダメージを回復させるための、まさに恵みの雨となるでしょう。怪我の状態がどれほど深刻なのか、それが今後のレースにどう影響するのか、今はただ彼の回復を祈るばかりです。

ジロはまだ始まったばかり。総合タイム差は縮まりましたが、上位陣も固まっているわけではありません。今回のログリッチ選手の失速は、総合争いを一気に混沌とさせました。彼の逆襲はあるのか？それとも新たなヒーローが生まれるのか？今後のジロ・デ・イタリアから、ますます目が離せませんね！