ラ・ブエルタ女子開幕、モビスターに不当制裁と混乱

ラ・ブエルタ・フェメニーナ開幕で勃発！混乱と厳罰、チームの怒号が飛び交ったバルセロナTTT

グランツールの現場を中心に追いかける私、山田 健一が、女子版ブエルタの開幕戦からお届けする。スペイン、バルセロナで幕を開けたラ・ブエルタ・フェメニーナ。初日を飾るチームタイムトライアルは、華やかなシティコースで行われるはずだった。しかし、蓋を開けてみれば、そこにあったのは想定外の混乱と、UCIの厳格すぎるルール運用に対するチーム側の強い不満であった。特に、モビスター チームとチーム ヴィスマ・リースアバイクという強豪チームが巻き込まれた騒動は、現場に不穏な空気を漂わせた。

自転車ロードレースにおいて、チームタイムトライアル（TTT）はチーム全体の連携と緻密な準備が試される種目である。機材チェック、ウォーミングアップ、そしてスタートランプへの移動まで、すべてが分刻みのスケジュールで進行する。しかし、この日のバルセロナでは、その歯車が大きく狂ってしまったのだ。

"不穏な空気"を生んだ機材チェック体制

今回の混乱の震源地となったのは、レース開始前の機材チェックだった。UCIのレギュレーションでは、スタート時刻の15分前までに指定された第2テクニカルコントロールに自転車を持ち込む必要がある。これが、この日のボトルネックとなったのである。

複数のチーム関係者から聞こえてきたのは、「チェックをするUCIのコミッセール（競技役員）の数が圧倒的に足りなかった」という声だ。当初はわずか1名で対応していたため、チェックレーンには長蛇の列ができたという。「まるでアマチュアレースのようだった」と嘆く関係者もいたほどだ。もちろん、レースの規模や参加チーム数を考えれば、十分な人員と体制を整えるのは主催者側の責任である。この初歩的なミスが、後述する数々の問題を引き起こすことになる。

相次ぐ"事故"と厳格すぎるサンクション

混乱はすぐに具体的な形で現れた。スタート時刻が迫るにもかかわらず、機材チェックを終えられないチームが続出したのだ。その犠牲者となったのが、スペインのナショナルチームであり、女子レースのトップチームの一つであるモビスター チームだ。彼らは規定の時間までにチェックを終えられなかったとして、UCIから1600スイスフラン（日本円にして約27万円）という高額な罰金を科された。

モビスター チームのDS、Kelvin DekkerはSNSで「我々が時間通りに来なかったのは事実だが、我々が来た時にはまだ前のチームをチェックしていた。最後の選手がスタートランプに上がったのは予定時間の5秒前だったんだ。そこから全てがおかしくなった」と弁明しつつ、「不当な罰金だ」「我々がスケープゴートにされた」と強い不満を表明した。これは、UCIのチェック体制の不備が原因で発生した遅延に対し、チーム側だけが責任を負わされたと感じている明確な表れだろう。

さらにシュールな光景もあった。チーム ヴィスマ・リースアバイクのイモージェン・ウォルフは、スタートランプに向かう正規ルートではなく、なぜか一般車両用のスロープを自転車で下りてスタート地点に到着したのだ。これは、機材チェックの遅れによってスタート準備がギリギリになり、チーム全体がパニック状態に陥っていたことを如実に物語っている。幸い、彼女自身へのサンクションはなかったようだが、トッププロのレースで起こるべきではない事態であることは間違いない。

現場とSNSから聞こえる不満の声

今回の騒動を受け、チーム側からはUCIへの批判が相次いだ。チーム ヴィスマ・リースアバイクのテクニカル責任者、Jacco Verhaerenは「UCIは状況が適切に処理されなかったことを認めた。それなのに、なぜその結果を我々が支払わなければならないのか？」とメディアに語っている。UCI自身が管理体制の不備を認めているにもかかわらず、チームに一方的な罰金を科すという対応は、確かに理解に苦しむ部分がある。

さらに、チームのスター選手であるポーリーヌ・フェランプレヴォも、自身のインスタグラムのストーリーズで怒りを爆発させた。「何週間もかけて準備し、時間通りにチェックに来たのに、プロセスを早めなければスタートランプに間に合わないと警告しても真剣に受け止められなかった。これはアマチュアのような状況だ」と投稿した。彼女の投稿は数時間後に削除されたようだが、その率直な怒りは多くのファンの共感を呼んだだろう。トップアスリートが、自身にとって最も重要なレースの準備段階で、このような運営側の不手際に直面し、フラストレーションを募らせた様子がひしひしと伝わってくる。なぜ投稿が削除されたのか、その背景には何か"圧力"でもあったのか…勘ぐりたくなるのは私だけではないはずだ。

レース結果と後味の悪さ

このような混乱の中、レース自体は進行した。優勝を飾ったのは、アメリカのLidl-Trek。彼女たちは安定した走りで最速タイムをマークした。そして、チームのエースであるVan Dijkが、奇しくも"母の日"に、産休からの復帰後初のリーダージャージに袖を通すという、心温まるストーリーも生まれた。これはこの日の数少ないポジティブなニュースだったと言えるだろう。

タイム差を見ると、Lidl-Trekに続き、モビスター チームが16秒遅れ、チーム ヴィスマ・リースアバイクが20秒遅れ、ウノエックス・モビリティが23秒遅れとなっている。このタイム差が、今後どのように総合争いに影響してくるかは未知数だが、特にモビスター チームにとっては、不本意な形でついてしまった16秒の遅れは痛恨だろう。

初日が終わってみれば、優勝チームの喜びよりも、多くのチームに残ったのは不満とフラストレーションだった。華々しい開幕を飾るはずだったバルセロナのTTTは、UCIの運営ミスと厳格なルール適用によって、後味の悪いスタートとなった。

次なるステージへ、混乱を乗り越えて

ラ・ブエルタ・フェメニーナはまだ始まったばかりだ。選手たちはこの混乱を乗り越え、明日からのステージで本来の力を発揮してくれることだろう。しかし、今回の件は、UCIのような統括団体が、レギュレーションを運用する際に、現場の状況やチーム側の事情にもっと配慮する必要があることを示唆している。厳格なルールは必要だが、それがレースを阻害する要因となっては本末転倒だ。

この"後味の悪さ"を払拭し、選手たちが気持ちよく、フェアに戦えるレースになることを心から願っている。明日からのラ・ブエルタ・フェメニーナの展開から目が離せない。